ご出身はどちらですか?

中国の東北地方の大連市です。仙台市と同緯度で、冬は寒く、雪が積もります。
沿海地域の工業観光都市であり、東北アジア国際金融・物流センターの機能を持っています。経済技術開発区と呼ばれる地区では、外資企業向けの税優遇政策が実施され、三菱電機やTDK等の日本企業が進出しています。
私は農村部の田畑に囲まれた景色の中で育ちました。私が幼少の頃は、農村部は皆さんが想像できないような田舎でした。
この道の先生になろうと思ったキッカケについて。

小学生の時は、とにかく“田舎を出ていきたい”という思いがありました。高校時代は成績が良かったこともあり、北京の大学を第1志望としました。
その頃、中国では経済発展による環境悪化の深刻化に伴い、環境問題の解決のためには工学の技術だけでは難しく、経済成長と環境保全の両立にはどういう政策が有効なのかという議論が始まった時期でした。それで経済学と工学両方から環境問題を分析できる人材の育成のため、ダブルディグリーのプログラム*が作られました。
私は、1990年代後半に中国人民大学の「環境経済学」と清華大学の「環境工学」のダブルディグリー専攻で無事に合格しました。高校時代は理系でしたし、今みたいに、Googleで検索もできず、広くいろいろな人の意見を聞くことは難しい時代でしたので、経済学部では何を学んでいるのかあまりわかっていませんでしたが、工学ともう一つ経済学の2つの学位がもらえるという理由からダブルディグリー専攻を選びました。実は、「環境」関連の学部に進学しましたが、環境問題を実感したのは大学生になってからでした。大学進学で北京に来て初めて、自分の故郷の空気がおいしいとわかるようになりました。
大学の教員を志すようになったのは、“教育に携わりたい”というのが一番のきっかけです。小学校から高校までの教育は“教える”ことが主ですが、大学では“教える”だけではなく、“一緒に学んでいく”ことができることにとても惹かれました。もちろん、長い期間をかけて自分が興味を持つ分野をコツコツ調べて研究をするのもとても魅力的だと感じています。
*ダブルディグリーのプログラム:5年間で中国人民大学と清華大学からそれぞれ1つの学位を取得できる制度
研究についてお聞かせください。

大学卒業後、九州大学の修士課程に進みました。「環境と経済成長の両立の問題」に関し「経済成長」をご専門になさっていた先生が私の指導教官で、博士課程でも先生の研究室に所属し、「経済成長」に関する研究を継続しました。産業革命以降の世界は経済成長を遂げた一方で、各国間の所得格差も拡大しました。そこで「経済成長の要因は何なのか」、「ある国は豊かである一方で他の国は貧しいのはなぜなのか」「どのような違いが各国の異なる経済状況を導いたのか」の研究に取り組みました。具体的なテーマとしては「経済成長と所得格差」、「経済成長と技術進歩」、「経済成長と政府制度」、「経済成長と環境保全の両立」などです。
最近では、主に「人口減少と経済成長」、「所得格差と経済成長」について分析しています。現在、日本国内で格差が拡大している一方で、世界でも、先進国と途上国で格差が拡大しています。また、これからは「労働人口の減少と技術進歩」、この二つの要素のもとで経済成長がどこに向かっているのか議論されることになると思います。議論はすごく分かれていて、「労働人口減少」は大した問題ではなく、労働人口を代替する新しい技術として「ビッグデータの活用や人工知能の発展」によって経済成長が遂げられるという議論もあれば、やはり技術開発を行うのは人間だから、「労働人口の減少」によって「技術進歩」の速度も遅くなって結局経済成長も低迷していくというのも主張の1つです。
学生に教えている授業内容について。

基本マクロ経済学」もう一つは「国際経済学」を教えています。さらに、「国際交流実習」も担当しています。
「基本マクロ経済学」では一国の経済活動の規模や金利などがどのように決定されるか、経済政策はどのような経済効果を持っているのかについて授業を行っています。
「国際経済学」では貿易の利益・パターンについて考える「貿易理論」やマクロ経済を対象とする「国際金融論」、為替レートなどの経済変数がどのように変化するのかについても扱っています。これらの授業では基本的な考え方を教えていて、学生が将来、“勉強しておいてよかった”と思ってもらえるように心がけて講義しています。
「国際交流実習(中国)」は、夏休みや春休みを利用して中国で現地実習を行っています。この実習は、日中の経済や異文化の相互理解を学習することを目的としています。最近では、3月に貴州省で実習を行い、同省にある日系企業訪問や佐賀大学と協定校関係にある貴州民族大学と共同セミナーを実施しました。
参加した学生達にはいい影響がみられました。日本にいると新聞やテレビでは、中国に関してマイナスの報道が多いと感じることがありますが、学生たちは一方的な情報ではなく、自分の肌で感じ、目で見ることがすごく大事だと思ったようでした。“貴州省の知見を佐賀県の経済発展に生かしたい”、“中国の方に親切にしてもらったことを、周りの人たちに分けてあげたい”、“もっと中国語を勉強したい”と前向きな感想が多かったです。
学生に向けて一言いただけますか?

大学は自分の人生を自分で切り開く第一歩です。のびのび大学生活を楽しみながら、たくさんの本を読んで、たくさん友達を作って、たくさんの旅に出て欲しいと思っています。
日本の大学の中だけで過ごしていると、「大学に行って、授業を受けて、単位を取って、アルバイトして、遊ぶ」という日常にあまり疑問を感じずに過ごしてしまうように思われます。他分野の知識に触れ、多くの人と出会うことで、問題を発見したり、解決したりする時に必要な多面的な視野が養われると思います。いろいろな面から物を見ることができれば、自分のアイデンティティの確立に役立ちますし、相手への理解も深まります。
これから日本もさまざまな価値観を持っている人や外国人が増えていき、みんなで一つのチームとして生活していくことが大切になってきます。若いうちに多面的・多角的に考える感覚を使ってほしいなと思います。
佐賀に住んで感じたこと。

子どもの就学で県外に引っ越すまでは、佐賀で暮らしていました。食べ物が美味しくて、お酒も美味しいところに一番魅力を感じています。いつも自転車移動ですので、自転車があればほとんどのところへ行けるコンパクトさはすごく助かります。
休日はどのように過ごされていますか?

休日は溜まった仕事や家事を片付けるのがほとんどです。余裕があるときは小説や映画を楽しみます。子どもがスポーツをやっているので、試合の応援に行ったりもします。最近面白いのは、子どもの影響を受けて、参加している競技プログラミングです。オンラインで出題されるプログラミングの問題を、移動時間や家事をやりながら考えています。
今後の目標をお聞かせください。

日本と中国の人口動態、経済成長の比較分析を行っていきたいです。
現在、中国も「少子高齢化」が進行しています。総人口は減少し、総人口に占める生産年齢人口の割合も2007年に低下傾向に転じており、既に経済成長の制約になっています。「少子高齢化」は一般的には先進国で見られる現象ですが、中国はまだ豊かになっていないにもかかわらず「少子高齢化」の段階を迎えています。今の中国の状況、人口構成・動態はちょうど日本の90年代前後と似ています。日本と中国の比較分析を通して、中国にとって参考となるような点を、これまでの日本の状況の中に見つけたいと考えています。
県下の企業・自治体・学校の中で何かやるとしたらどんなことをやりたいですか?企業や社会人の方へ一言いただけますか?

これまでは国レベルの経済成長に関わる研究を行っていましたので、地域経済に関わりがほとんどありませんでした。しかし、一昨年、佐賀県の委託で、「ゴミ排出・リサイクル問題」の研究を行いました。データを収集し、人口構造、産業構造や高齢化率との関係性を分析した上で、約2,000人に対してアンケート調査を行いました。「リサイクルに取り組む意識」や「ルールに従った分別の手間」等について伺い、回答結果からリサイクルに関する情報提供の充実や分別方法のわかりやすい説明の必要性が示されました。
この調査では、新しい視点が得られ大変勉強になりました。アンケート調査に協力くださった方々には感謝の気持ちでいっぱいです。
この調査の経験もあり、今後、地域の経済発展に貢献できる機会があれば積極的に取り組んでいきたいです。