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佐賀大学の教員紹介

2024.02.27
佐賀大学の教員紹介

経済学部 経済学科 薗田 竜之介准教授

 

1.ご出身はどちらですか?

 

 兵庫県の神戸市の出身です。北区で、山手の方なんです。

 神戸は関西弁なんですけど大阪とは若干違いまして、「何々している」っていうのを「何々しとう」と言います。「何やっとんねん」って言って突っ込むのは大阪人で、神戸では「何やっとうねん」になります。

 母の出身が北九州、父は鹿児島で、草冠がつく「薗田」は鹿児島特有の名字なんです。それで九州には馴染みはあったんですけれども、佐賀弁は独特ですよね。福岡と共通するような言葉は慣れてるんですけれども、年配の方の佐賀弁を聞くとわからないことがあります。最初赴任した時に感動したのが「がばい」。本当に日常生活で使うもんなんだってびっくりしました。

 大学時代は京都に下宿してまして、大学の周りに学生が必要なものが何でも揃ってますし、京都は学生が住みやすい町なんです。すごく楽しかったですね。

 

 

2.この道の先生になろうと思ったキッカケについて。

 

 理系の先生みたいに、「子供の頃からこの分野が好きで、大学進学する時も研究しようと思って入りました」というわけではなく、大学に入った時は全く経済学の研究者になろうとは思ってなかったです。もちろん「経済学は面白いんじゃないかな」というイメージは持っていましたし、興味はあったのですが、どっちかというと受験科目の関係で入りやすかったから選んだというのが正直なところです。

 どこの大学の経済学部も大体、「ミクロ経済学」と「マクロ経済学」というのが基本となりますが、実際、授業が始まると、何が面白いか全然わからなくて、やる気をなくしてしまい、全く勉強しませんでした。当時の「マクロ経済学」のテストの点数は100点満点中8点、「ミクロ経済学」は30点くらいでした。すごい劣等生で、「どうすんだろう」みたいな感じでしたので、当時の私に「お前は将来、経済学の研究者になって、8点しか取れなかった1年生向けのマクロの担当教員になるんだぞ」って言っても、絶対信じないと思います。

 

 経済学部は2回生になるとゼミが始まるんですけど、そこで入ったゼミが面白かったんです。数あるゼミの中では、例年、1人か2人しか入らないっていう不人気ゼミでしたけど、大学院への進学率は高くて、院に進んでからも、学部のゼミに先輩たちが顔を出してくださるっていう文化があるところでした。2回生でそのゼミに入ったのは私1人だけで、同世代はいなかったんですが、修士とか博士の先輩たちが学部のゼミに来て、一緒に議論してくださる環境にいると、経済学の面白さっていうのがわかってきたんです。いきなり教科書を読まされた時は、「何のためにやってんだ」って思ったこともありましたが、社会に対する考え方の上に理論が発展してきた歴史があって、それで今こういう議論があるんだけれども、もちろんそれが全てではなくて、他の理論の系譜なんかも当然あって……というようなことを勉強していくと、「なるほどこういう世界って面白いんだな」って思うようになりました。合宿では、学部生も院生も一緒に旅行に行って、そこで院生の方々の研究発表を聞く機会なんかもあったりするんです。そうすると、大学院への進学なんて想像もしなかったんですけど、「研究の道を志して、これだけ頑張っている方たちがいるんだ」っていうのを見るわけです。そうするとやはり「勉強しないといかん。勉強せんと恥ずかしいな」って思いますし、「研究の世界ってなんか面白そうだな」っていう憧れも芽生えてきてっていう感じです。

 

 当時の先輩方の多くも、現在、研究者になって大学にいらっしゃるので、私が教員になってから、今でも先輩たちと合同でゼミ合宿をやっています。それぞれのゼミ生を連れて行って、そこで合同研究発表会を毎年恒例でやってます。学生時代の繋がりが今でも続いていて、ゼミでの先輩方との出会いは私にとっては非常に大きな出来事で、この道を志したキッカケです。

 

 

3.研究についてお聞かせ下さい。

 

 今、専門で研究している内容は、「マクロ経済学」の一種になります。「マクロ経済学」っていうのは、ざっくりいうと、一国レベルの経済において、景気がどう変動しているか、財政政策とか金融政策はどう関係してくるかということをとらえようとする分野です。

 私は特に「所得分配」に焦点を当てて研究しています。資本主義経済では、かなりの部分、企業が労働者を雇用して、労働者が働いて、物やサービスが生産されて、経済的な付加価値が生産されます。その生産された付加価値というのが、ある程度の部分は働く人の「賃金」として支払われて、「賃金」を支払った残りの部分が企業の「利潤」となります。これが「所得分配」で、「賃金」と「利潤」にそれぞれどれぐらいの割合で分配されるか、というのが重要になります。この割合はもちろん極端に偏ることはなくて、概ね一定の範囲内に収まりますが、その時々の局面で変動もしています。変動すると何が起きるかといいますと、例えば、「賃金」が上がると、人々は「賃金」で買い物をするわけですから「消費」が増えます。逆に「利潤」が増えると、企業は、機械を購入するといった設備投資を行ったり、研究開発を行ったりといった「投資」を増やします。そして、労働者が買い物をする「消費」にせよ、企業が工場などを建設する時の「投資」にせよ、「マクロ経済」のレベルでいうと「需要(どれぐらい人々がお金を出して物やサービスを購入するか)」に繋がります。

 

 「賃金」と「利潤」の「分配」のあり方によって「消費」と「投資」が変化するということは、それによって経済全体の「需要」が変動するということです。現在の経済ですと、生産能力の限界(働く意思のある労働者や使える設備をフルに使っての生産)で生産が行われることはほぼないですから、「生産」の水準が何によって決まるかというと、「どれくらい売れるか」という部分で決まります。売れないのに作っても損をするだけなので、当然、「需要」にある程度合わせる形で、「生産」の調整が行われていると考えられます。そうすると、どれぐらい「需要」があるかが、どれぐらい「生産」が行われるかというのに繋がってきて、結局、「景気の動向」と呼ばれるものに繋がってくるだろうと考えられます。つまり、生産された付加価値が「賃金」と「利潤」にどういう割合で分けられるかという「所得分配」が変わると、それが「需要」を通じて「景気」を動かすわけです。さらにこの「景気」が変動すると今度は、当然「賃金」がどれぐらい上がるかとか、抑えられるかとかいった部分に影響したり、あるいは「不況」になったら、場合によっては人減らしが行われて、失業する人が出てきたりします。そうすると今度は、「景気の動向」が「賃金」と「利潤」の「分配」のあり方を変えていきます。だから「分配」のあり方が変わると「景気」が変動するし、「景気」が変動するとその影響で「分配」のあり方が変わる。この相互作用で、経済は回っているのではないかというふうに考えられます。その相互作用において、お互いがどう影響し合って回っているのかというのが、「所得分配を重視したマクロ経済学」の基本的なテーマとなります。実際いろいろな理論がありまして、いろんな形があり得ます。

 

 「賃金」の方に多く回ったときの方が、トータルで見たときに、「需要」を増やして、「景気」を引き上げる効果があるというケースもありますし、逆に企業の「利潤」の側に多く回した方が「投資」が活発化して、「景気」を良くしたり、経済成長率を高めることに繋がったりというケースもあり得ます。また、「景気の動向」が「分配」に与える影響についても、「景気」が良いときほど労働者の「賃金」に回る割合が増えるケースもあれば、逆に企業の「利潤」に回る割合が増えるケースもあります。いろんな「雇用」のあり方、例えば「解雇に関する規制」とか、あるいは「賃金がどういう影響で決まっているのか」などによって、どちらの場合もあり得るのです。

 

 私は、「所得分配」と「景気」がどのように影響し合っているかは、「国によって違いがあるのではないか」、あるいは「同じ国でも時代によって違うのではないか」というところに関心を持って研究に取り組んでいます。修士論文では、日本とアメリカの違いに注目し、40年間程のデータをモデル(*経済に及ぼす影響を計算するための理論)に入れて比較分析しました。簡単に言うとアメリカと日本では「雇用」のあり方が違い、アメリカでは景気が悪くなると簡単に労働力を減らす仕組みになっていて、「景気」が変動すると雇用量が大きく変わります。そうすると「賃金」も失業率がどれぐらい高いかといった市場の状態にすごく影響されます。失業率が高いと、労働者の代わりがいくらでもいるからという理由で、「賃金」が大きく下がるわけです。コロナ禍から経済が急回復する局面で、アメリカはすごいインフレになりました。そこにまさにアメリカの特徴が現れていますが、景気が良くなると、不況時に減らした労働者を一気に採用しようとするので、今度は急に「賃金」が上がったりするんです。ですからアメリカは「景気」の動きと「賃金」の動きが非常に強く連動しています。そのため「景気」が良いときは、「分配」における「賃金」の割合も上がり、逆に景気が悪くなると今度は「賃金」がすごく下がるので、企業の取り分である「利潤」の割合の方が増えるという動きになるんです。ところがこれが日本だと、不況時でもアメリカほど柔軟に人を減らすことは行われませんので、企業の「利潤」が削られる傾向が強く、逆に景気が良いときも、「賃金」が急激に上がったりはしません。その結果、景気がいい時ほど企業の取り分が増えて、景気が悪い時は労働者の取り分が増えるという、アメリカとは逆の動きが出てきます。

 

 修士論文では、このように40年間という長期のスパンで「日本の特徴はこうだ」というふうに言ってますが、実際は日本の社会構造も時代とともに変わってきています。終身雇用が強く保障されていた時代と、バブル崩壊後の非正規雇用が増加していった時代では違いがあるだろうということで、分析期間を分けて研究していくと、確かに違いが出てくるということがわかってきました。1990年代半ばぐらいから、日本もアメリカとまではいかないですが、アメリカ的な振る舞いを見せるようになってきているんです。博士論文では、こうした研究成果をまとめて学位をいただきました。

 現在は、こうした研究を発展させる形で、「所得分配」に関わる様々なテーマについて、研究しているところです。

*モデル:a theory used for calculating the effect of something on an economy 

<https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/economic-model>

 
 

4.学生に教えている授業内容について。

 

 1年生向けの授業である「日本経済論」と、マクロ経済学の一番初級で、佐賀大では1年生の必修科目になっている「基本マクロ経済学」を教えています。「これから経済学を勉強していく上でも、社会に出てからも、絶対知っておいた方がいいことを教えよう」というつもりでやってます。

 「日本経済論」は、戦後になってからの日本経済の歴史を踏まえた上で、日本の経済がどういう特徴を持っていて、どういう課題を抱えているか、といったことを主に教えています。

 マクロ経済学の理論の基本である「基本マクロ経済学」は、新聞を読んだり、経済政策に関するニュースを理解する上でも、必須の部分になってきます。「これは社会人にとって必要なリテラシーであり、学生時代に身につけて欲しい重要な部分なんだよ」という思いを込めて、教えているところです。

 

 

5.学生に向けて一言いただけますか?

 

 やっぱり大学の授業で経済の話をしても学生はピンときていない様子で、すごく経済に関心持ってる学生もいるとは思いますがおそらく少数だと感じます。多くの学生は、経済なんて気にしたこともないし、わかんないよっていう反応で、それは仕方がないことというか、自分自身が大学に入った当初を思い返しても、それが自然なのかなとも思います。でも、実際に社会に出ると、経済学はすごく重要なところなんです。社会人の方からは「学生の時、経済学をもっと勉強すればよかった」とよく言われます。社会に出てから求められる知識を大学の勉強として、学術的な理論の裏付けを伴った形で勉強できるっていうのはすごく幸せなことだと思います。そういう意識でもって勉強してほしいと思っているのですが、なかなか難しいです。

 佐賀大の学生は非常に優秀だと思いますし、真面目でもあるんです。テスト勉強なんかすごく一生懸命やるんです。なんですけど……テスト終わったらスコンと忘れてますよね。やっぱりそれは今勉強してることが「将来すごく役に立つ、使える知識」を勉強してるんだっていう意識が持ちづらいからなんだろうなと思います。

 我々教員の力不足っていうのもあるとは思うんですけれども、単位を取るためだけの勉強ではなくて、この内容が社会に出てからどう役に立っていくのか、っていうことを考えながら勉強してもらいたい。そこをちょっと意識してやるだけで、だいぶ違うんじゃないかなと思います。そのためには、まず社会に関心を持つことが重要だと思います。ありふれたアドバイスにはなりますけど、やはり新聞を読んだり、ニュースを見て欲しいです。大学で学んでいることと、今の社会で起きている出来事がどう結びつくのかっていうことを、ちょっとアンテナを張って考えるだけで全然違うと思いますので、ぜひとも社会に関心を持って欲しいです。佐賀大の学生は力があるだけに、大学の勉強をちゃんと血肉にしないで卒業してしまうのは、もったいないと思います。

 

 

6.佐賀に住んで感じたこと。

 

 住みやすいです。皆さん優しいですし、本当にいいとこだなと思います。文化的にも非常に豊かだと感じますね。学生さん達には、佐賀のいろんなところへ行ってもらいたいなって思います。大学近くの県立博物館・美術館へ行くだけでもいいですよ。佐賀に赴任して当初、「無料なの!」とびっくりしました。無料でこれだけ充実した内容を見られるんだっていうのが、すごく文化を大事にしてるところなんだなって感じました。あと有田の九州陶磁文化館は、すごく見応えありますので、1日じゅう過ごせますね。佐賀は本当にいろんな文化芸術には触れられるいいところだなと思っています。

 

 

7.休日はどのように過ごされていますか?

 

 昔から推理小説が好きで(アメリカの推理小説家のエラリー・クイーンのファン)、大学時代も「推理小説研究会」なんていうサークルに入っていました。今も「佐賀ミステリーファンクラブ」というサークルを作ってます。佐賀にお住まいの推理作家さんと知り合いになる機会があって、地域のミステリー好きを集めて、月1回読書会をやっているんです。会誌も発行していて、私は評論を書いて載せています。小説を書かれている方もおられます。

 

 

8.今後の目標をお聞かせ下さい。

 

 自分の中の目標としては、日本の特徴に着目した研究を発展させていきたいと思っています。

 日本の特徴を反映したようなモデルを作って、国際学会で発表すると、海外の方には「何だかわからない」という反応があることがあります。例えば「労働組合」に関して、日本の場合は、特に大企業中心に「労働組合」が結成されていて、雇用を守ることが優先される傾向にあります。海外の「労働組合」だと、「賃上げ」を要求するのが当たり前なんですけど、日本では企業を取り巻く環境が厳しくなると、「労働組合」の方が雇用を守ってもらうために、「賃金の抑制」を積極的に受け入れるみたいな面がかなりあります。国際学会でそうした特徴を表すようなモデルを出すと、「そんな労働組合が本当にあるのか!」と驚かれます。

 日本は良くも悪くも、そういう独自の特徴があって、それが海外の研究者の多くには、まだまだ知られていない。なので日本の研究者が、積極的に、意識的に、日本の独自性を取り入れた理論研究、実証研究を発信していくことには、意義があるのではないかと感じています。自分なりに、そうした研究成果を国際的に発信していくことが、今後の目標ですね。

 

 

9.県下の企業・自治体・学校の中で何かやるとしたらどんなことをやりたいですか?

 

 私の研究は、一国レベルの分析から出発しましたので、佐賀に来るまでは、地域経済はあまり視野に入っていませんでしたが、佐賀大学に赴任して、自治体さんから、調査や共同研究依頼がくるようになりました。そうすると、地域の研究って大事だと思い始めています。国全体で見るのと、地域のレベルで見るのでは、やっぱり違います。

 日本では内閣府が出している景気の指標がありますが、現在佐賀県では県レベルの景気指標の作成作業が行われていて、その検討会のメンバーに私も加わらせてもらっています。こうした仕事は、とても勉強になっています。

 県内企業や自治体と連携、貢献できる機会があれば、今後もやっていきたいと思います。