佐賀大学リージョナル・イノベーションセンター

お問合せ

佐賀大学の教員紹介

HOME >  佐賀大学の教員紹介 > 『佐賀大学の教員紹介』
農学部 堀谷 正樹先生

佐賀大学の教員紹介

2023.06.15
佐賀大学の教員紹介

農学部
生物資源科学科 生命機能科学コース

堀谷 正樹 先生

1:ご出身はどちらですか?

 

 奈良県です。多分、周りにほとんどいないですよね。佐賀に初めて来た時、福岡空港から高速バスで来たんですけど、そうしたら「大和インター」があって。大和って奈良はすごく多いんで、「あれ?どこに来たんやろう?」と思いました。私の生まれは大和八木で、大和三山(やまとさんざん)(奈良盆地南部。万葉集に詠まれた橿原(かしはら)市にある畝傍山(うねびやま)、天香久山(あまのかぐやま)、耳成山(みみなしやま)の総称。)があるところです。

 高校までは奈良で過ごして、大阪大学へ。阪大で学位取った後に、国立研究開発法人 理化学研究所(RIKEN)播磨研究所、SPring-8(大型放射光施設)があるところで2年間ポスドクをしました。その後、アメリカのノースウェスタン大学(五大湖の1つ、イリノイ州ミシガン湖沿いにキャンパスがある)に6年間留学し、帰国して佐賀大学に着任しました。

 

 

2:この道の先生になろうと思ったキッカケについて。

 

 この道に進もうと思ったきっかけは大学4年生の研究室配属です。もともと興味があったのは生物だったんですが、高校では国立大学を目指すなら、化学・物理を取っておかないと受験の幅が狭まった時代で、受験のために仕方なく生物を受講できませんでした。小さい頃から虫を見て、「すげえ!」とか、植物を見て、「何で?」とかっていう身近な不思議にすごい興味があって、生物の研究をやりたいなとずっと思っていたんで、進学先は医学部、農学部と理学部で悩みました。最終的には就職のことを考えたら工学系もありかと思って、阪大と東京工業大にしかない基礎工学部(理学部と工学部の真ん中)の生物工学科に進学しました。当時の生物工学科には脳科学、神経生理学、タンパク質(生物物理)、ロボット工学、電子回路、単細胞生物とか色んなことをやっておられる先生がおられました。

 研究室配属では、直観でタンパク質の研究室を選ぶことにしました。タンパク質を扱っていた研究室は、筋肉(ミオシン・アクチン)とヘムタンパク質(鉄(ヘム)を含む金属タンパク質)の研究室があったんですが、解剖に苦手意識があったのでヘムタンパク質の研究室に入りました。

 タンパク質の約3分の1が、何らかの金属を含んでいて、鉄などの遷移金属がタンパク質機能の中心的な役割を担っているものが多くいます。金属で何をしているのかって言うと、酸化数を変えたり、分子結合の数を変えたりしてます。例えば、酸素は結合の手が2本、炭素は4本と習いますけど、金属の場合は4本、5本、6本などと変えることができるんです。つまりそれが金属タンパク質の多様な機能と結びついてます。この金属の状態を調べる手法のひとつが「電子スピン共鳴」で、私は「電子スピン共鳴」を使った金属タンパク質の専門家です。

 しかし、「電子スピン共鳴」ではタンパク質全体の構造(形)はわかりません。見えるのは、「金属イオンの電子状態」で、一般の方にはなかなか分かってもらえません。学会でも、他の研究者たちは、「綺麗なタンパク質構造のグラフィック画像」を出す中で、僕は「電子スピン共鳴の信号」を出して、こういう機能がわかりましたという話をするんですが、反応が良くないです。

 それで、視覚的に分かりやすいタンパク質の三次元構造の研究をやりたいなと憧れをもっていて、学位取った後にSPring-8(大型放射光施設)がある理化学研究所にポスドクで行くことにしました。タンパク質の構造ってすごい綺麗なんですよ。自然が作った美しさです。しかし、理化学研究所で雇用先の先生に「構造解析をやりたくて来ました」って言うと、「電子スピン共鳴をやってるタンパク質研究者は日本で誰もいないよ。あなたは日本のこの業界を引っ張っていく人にならないと駄目じゃない」ってご指摘して頂きました。昔からタンパク質の構造研究は花形で、特にSPring-8などの放射光を使った研究をやる人って、世界中にいっぱいいるんですよね。それで先生から言ってもらった言葉で「電子スピン共鳴」を極めようと決意し、世界的な電子スピン共鳴の研究室に研究留学することを決めました。

 とは言っても、渡米した時点では英語は全然できなくて…(今もですが)。これぜひ書いてもらいたいんですけど、「英語はできなくても何とかなるんですよ。生きていけます!」最初は何がストレスだったかって言ったら、スーパーで店員さんに喋られるのがすごく嫌でした。野菜買ってレジ並んだら、「Hi!」って喋ってくる。ほんまにそれがストレスでした。でもこれがアメリカのコミュニケーションの仕方なんだってわかってきたら、「こっちも喋らんとうまくならん」っていうのもあって、喋るようになりました。研究室でボスと話す時は帰国直前でも、いつも自由帳と鉛筆を持って、絵を描いてディスカッションしてましたね。

 何年アメリカの研究室にいれるかわからない状況で行ったので、だいぶ精神的な不安はありましたけど、今から思えば、行ってよかったなって思います。実際行かないとわからないことがたくさんあります。

 ですので、この道の先生になろうと思ったきっかけは、やっぱり「電子スピン共鳴で世界をリードする人になりなさい」っていう言葉ですね。そのためには「世界一の研究室で勉強しなきゃ」って、思い切ってアメリカに出て、少し「この道のプロになれるかもしれない」と自信が付いたのが最終的な決定打です。

 

 

3:研究について、今後の目標についてお聞かせ下さい。

 

 現在は先任者が南極海の生物のタンパク質の研究をなさっていて、そのテーマを引き継いでやらせていただいています。南極大陸はマイナス20℃とか、場合によってはもっと寒くなりますが、南極海の中は4℃くらいです。ヒトが持ってるタンパク質って、4℃じゃほとんど働きません。でも南極の生物が持っているタンパク質って、4℃でも働けるようになっているんです。ヒトが持ってるタンパク質と同じ機能を持っている南極のタンパク質の立体構造を眺めると、形は全く同じです。プロでも見分けがつきません。形と機能は一緒だけど、タンパク質が働く温度が違うという特徴があって、その原因を明らかにしたいと思っています。

 さらに温水源、熱水源で生きている好熱菌のタンパク質についても調べたいと考えています。例えば武雄温泉にも生物がいるんですよ。100度超えても生きれる生物がいて、そのタンパク質は100度を超えても、壊れないんです。これも形を見ると、そっくり一緒です。アミノ酸の構成とかは微妙に違うので、実際にどういうところを変えると、機能を維持したまま100℃超えても壊れない能力を持つのか、低温で働けるようになるのかといったところを明らかにして、人工的にタンパク質の性質をコントロールすることが最終目標です。

 また最近始めたテーマが深海生物のタンパク質です。これは低温で働けて、圧力にも強いんで、すごく変わっています。今後はもっと風変わりなタンパク質を探して、風変わりさを発揮している要因をどんどん突き止めていきたいですね。

 

 

4:学生に教えている授業内容について。

 

 1年生で生物化学、2年生で酵素化学、3年生で生化学実験という流れで授業をさせて頂いています。いずれもタンパク質や酵素を題材に座学から実習まで幅広く教えています。

 一般の方にとって、タンパク質ってどういうものでしょうか。筋トレして、タンパク質を食べるみたいな感じでしょうか。タンパク質って、アミノ酸から成ってるんですね。アミノ酸は基本的には20種類あって、そのアミノ酸が連なってタンパク質になります。アミノ酸の長さはタンパク質によって全然違いますし、アミノ酸の構成割合も全然違います。アミノ酸がどういう順番で並んでるかっていう設計図はDNAに書かれてるんですが、DNA上での並び方が分かってもタンパク質の形や機能は分からないんです。そのため、授業でもDNA、アミノ酸、遺伝子配列からタンパク質の合成がどのようになっているかをまずは知ってもらって、そのタンパク質がどういう形をしていて、どういう機能を持っているか、そしてそれらを明らかにすることが疾病や創薬に結びつくという一連の流れを大切にしています。できるだけ今の学生さんが興味持ちそうな話(創薬や食品など)に結びつくように心がけています。

 

 

5:学生に向けて一言いただけますか。

 

 言いたいことめちゃめちゃあります。高校生までは先生から「これをしなさい」と言われて、与えられた課題をやっていればOKでしょうけど、大学からは違うと思うんです。佐賀大学は「面倒見がいい大学」をモットーにしてますが、残念ながら、きちんとその意味を理解している学生は少ないように感じます。例えば、自分で何も調べもせずに、いつかそのうち「面倒見がいい大学」が何かしてくれるだろうと思ってる。でもそれじゃ社会に出ても、通用しませんよね。大学時代の自由な時間で、いろんなことを自らの力で行うべきだと思います。勉強だけじゃなくて、留学でも、アルバイトでも、英語力アップでもいいと思います。金銭面だけじゃなくて時間的にもうんと自分に投資して、色々なチャレンジをしてほしいと思います。あと、自ら考える力をつけてほしいです。深く考えるクセを付けないと自ら動けませんよね。また、与えられたことをやるっていうのではなく、人から言われたことは逆にやらないというぐらいの天邪鬼さが欲しいなと感じます。皆さん素直すぎなんです。元気良くたくさんの挑戦をして欲しいです。

 

 

6:佐賀に住んでかんじたこと。休日はどのように過ごされていますか。

 

 とにかく食べ物が美味しい。特に、トマトの美味しさにびっくりしました。佐賀のトマトはめちゃくちゃ美味しいですよ!初めて食べたときは「フルーツや!」と思いました。安いし!他の野菜もすごく美味しい。

 コロナ禍になってキャンプをするようになったんですが、すごくいいロケーションが多いです。あと温泉もたくさんありますよね。また生命機能科学コースには釣り好きの先生方が多いんで、海釣りにも良く行ってます。鯛、イカ、ヒラマサ釣りをしてます。イカは一晩で100杯釣れるときもあります。釣りに行くってなると、研究室の学生達もおみやげを待ってて、自分たちで鯛もさばくし、イカもお造りにできるんです。魚をさばきながら、「これは赤くないからヘモグロビンおらへんやろ」、「ヘモシアニンは金属が鉄じゃなくて銅やから青いねん」と言ったりしてます。

 

 

7:佐賀県下の企業・自治体・学校の中で何かやるとしたらどんなことをやりたいですか?

 

 もちろん「科学への扉」、「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」とかっていう模擬講義的なことは今すぐできると思いますし、協力しています。企業や自治体とも何かさせて頂きたいなと考えているんですが、基礎的な研究を中心にやってますので、実際にはまだ実現まではいってないのが現状です。でも地元貢献に対する強い希望は持っています。