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HOME >  佐賀大学の教員紹介 > 『佐賀大学の教員紹介』理工学部 理工学科 機械工学部門  椿 耕太郎先生

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2024.01.22
佐賀大学の教員紹介

理工学部 椿 耕太郎助教

 

 

1.ご出身はどちらですか?

 

 出身は愛知県の名古屋市です。石川県の金沢大学へ進学して、大学院は東北大学に移り仙台で過ごしました。博士号取得後、教員募集のあった佐賀に来ました。金沢大学も東北大学も山の上にあって、通学が大変でした。金沢の冬は雪が結構降り積もりますが、毎日のように雪が降り、上の雪は固まっていないので自転車には乗れます。もっと大変なのは仙台で、雪が降らずに冷えるので、氷でツルツルになった道と凍ってない道の区別がつかなくて危ないんです。

 

 

2.この道の先生になろうと思ったキッカケについて。

 

 あまり学校の勉強は好きではなかったんですが、何か物を作ったり、新しいことを知ることが好きでした。工作や本を読むのが結構好きで、子供向けの科学の本に興味がありました。父親も大学の教員をしていて、何となく「何か研究をしているんだろうな。いいな。」っていう思いが小さい時からありました。キッカケがあったというより、父親を見てるうちにだんだんと、「自分に合っているのでは」との思いがあって、大学進学の時には、大学に残りたいと考えていました。そうしているうちに、博士課程を修了して佐賀に来ることとなりました。

 大学では工学部の機械工学科だったので卒業研究で研究室を選ぶときに、熱、流体、材料といろいろある中で「熱」の先生が良さそうだなっていうのと、環境問題、エネルギーだとやっぱり「熱」の勉強をしてみたいと思って「熱」を選びました。学部ではエネルギーというよりは、「熱や物質の移動」を勉強して、大学院では「海洋深層水を動力を使わずに、海水の温度差・濃度差で汲み上げる」研究をしてました。また、大学院生の5年間、船に乗っての実験(1回の期間2週間~1か月ぐらい)も行っていまして、「うなぎの産卵地点を発見」された東京大学の塚本勝巳先生と長くご一緒させていただいていて、そのテーマの関係で白鳳丸という研究船に乗船していました。船を出す時はすごく費用がかかるので、いろいろな大学の研究者の寄り合いみたいな形になるんです。東京大学の方々の中に交じって、うなぎの研究のお手伝いもしていました。船酔いしながら、網をザーッと引いて、ちっちゃいうなぎの赤ちゃんや卵がないか探すんです。最近、小学校の教科書に、塚本先生のご研究体験が掲載されていて、子供に「お父さんこれ一緒に乗ったんだよ」って言ったらものすごい尊敬の眼差しで、小学校の先生の面談では、「乗られたんですか!」って驚かれたりしてます。

 工学部は、応用ありきで製品化することを目標に研究するという考え方ですが、塚本先生は理学部の先生で、うなぎの産卵場所をすごく純粋に探求されていて、非常に刺激を受けました。現在の研究には直接繋がってはいませんが、得がたい経験をさせていただいたなと思います。

 

 

3.研究についてお聞かせ下さい。

 

 ずっと環境関係の自然エネルギーに関わりたいという思いはずっとあって、佐賀大学に来てからは、佐賀県の企業さんと「地中熱(*1)」をやり始めて、その後、自治体と佐賀県内でどんな自然エネルギーがあるかを探す取組みをしました。

 

*1地中熱:深さ10mくらいのところの地温は、年平均気温にほぼ等しくなっています(東京や大阪では17℃程度)。温度が一定である地中は冬には温かく夏は冷たい。地中熱の利用ではこの外気との温度差に着目して、効率的に熱エネルギーの利用を行っています。https://www.env.go.jp/water/jiban/post_117.html

 

 「地中熱」は、大陸の古くて硬い地質の中国、アメリカ、ヨーロッパで盛んです。硬いため機械で穴を掘って、その機械を取り出しても地面が崩れません。日本の問題として、日本の地質は、土、砂利が多いので、機械で穴を掘ってその機械を抜くと、そのままガサガサと穴が埋まってしまいます。穴を掘ったら、そこにシールドをする必要があって、手間が倍になり、すごく費用もかかります。穴を縦に掘って、そこに土から熱を採るチューブを入れるのですが、地層に対して横に掘ってチューブを入れる技術があって、簡単な操作で、安くできるという話を耳にする機会がありました。横に鉄の棒を押し込んでいくと、ちょっと先が曲がって、鉄の棒の先端が土から出るんです。そこにチューブを入れてぐるぐるっと引っ張り込んでやると、ずっと少ない工程で終了するんです。

 また、土の中を熱が移動するとき、水や土がとどまっている時と、動いてる時では熱の移動量が全然違います。例えば、貯まっている水と、川で流れている水だと、流れている川の水をずっと冷たく感じると思うんですが、地下水の流れがあると熱の輸送量が圧倒的に増えます。中国やアメリカでは、地質が硬く地下水がほとんど流れていませんので、地下水の影響を受けることは多くありません。それで、日本の地下水の流れはすごくプラスになると考えました。何とかうまく使えないかなと思ってたんですけど、縦に熱を採るチューブを入れてしまうと、地下の地層って横に広がっているので、一部の熱は取れるのですが、結局熱がないところとあるところが出来てしまうので、それで横にチューブを入れると、横に広がってるその地下水の地層に入ったチューブで、最大限利用できるというわけです。

 そうは言うものの、なかなか地下水の位置の把握が難しい現状があります。山から海に向かって地下水は流れます。大きな流れの研究はなされているんですが、小さな流れの研究はされていないんです。「地中熱」利用で必要となる地下水の流れは数百メーターから100メーターぐらいの範囲で、どこに流れているか知る必要があって、例えば、上流に大きな石があって、地下水の流れが止まってしまったという場合は、地下水の位置の把握が難しくなってしまい、なかなかデータが取れません。日本は地下水が豊富ですので、うまく解決できれば、だいぶ性能の高いものが出来るのではないかと考えて取り組んでいます。

 資源のない日本で、「地中熱」はどこでも掘ってしまえば使えます。佐賀県は平らな土地が多いので、「地中熱」に適した地域だと思います。ただし、佐賀は泥の地質が多いので、地下水を使用した地中熱の利用は難しい場所もあります。自然エネルギーっていう意味では、太陽光とか風力がメインなんですけど、太陽光も曇ったら使えないですし、風力も一時期、ヨーロッパの方で風が吹かないから、風力が一気に落ちてしまったという例があるなど、不安定な面があります。「地中熱」は掘れば必ず熱を採れるので、安定した自然エネルギーです。一方で、エネルギーの密度(単位あたりのエネルギーの量)はすごく低いので太陽光や風力に代わるのは難しいのですが、不安定な変動の穴を埋めるような使い方ができるので、大きなエネルギーではなくて、ちょっとサブのところでどこでも使えて、支えになるエネルギーと考えることができます。これから本気で化石燃料を減らしていくとなると、もっと使い道が出てくると考えています。

 

 

4.学生に教えている授業内容について。

 

 授業は主に実習の「機械エネルギー工学実習」と「卒業研究」を担当しています。卒業研究の学生や大学院の学生と「熱力学」や「伝熱工学」の勉強もしています。「熱力学」ってわかりにくい部分があるので、7、8人ぐらいで一緒に、研究室の横の部屋で勉強しています。途中からテキストを作るようになって、それを読んでもらっています。理工学部の機械系で扱う力学では、「熱力学」以外に、「機械力学」とか、「流体力学」、「材料力学」ってあるんですけども、その中でも飛びぬけて「熱力学」は難しい。私も学生の頃は、わかったつもりだったんですけど、今思うと全然わかってなくて、教えながらだんだん面白いなと思えるようになってきました。それに、授業だと、どうしても一方的になってしまって、そこまで面白さを伝えられないんです。何とかその面白さが伝えられないかなっていうのもあって、7、8人で一緒に勉強をするようになりました。「どこがわかんないの?」って尋ねることができるので、わからない部分をテキストに書き足していっています。

 聞いて、ただただ覚えるよりも、「知った喜び」ってすごくモチベーションになると思うんです。高校までは受験勉強がありますが、大学に入ってからは、できれば、「知りたいこと」を学んで欲しいなって思いますし、大学院では研究がメインなので、なるべく「知る楽しさ」を知って欲しいです。テキストを読んだだけでは、問題は解けないかもしれませんが、「あっ、わかった!こういうことだったんだ!」という、理解した感覚を味わってもらえたらと思います。テキストは、いろんな人に見てもらおうかなっていうので、私のウェブサイトに載せています。

 

 

5.学生に向けて一言いただけますか?

 

 私達の時代の教育って、「とにかく覚えなさい。やりなさい。」っていうので、言われるがままという感じでしたけど、最近ちょっと変わってきたような気がします。子供の授業参観で、グループで話させたり、ちょっと長い意見を言ったりする授業があって、考える教育の方向に動いてるのかなと感じます。

 大学では自分で考えることを求められると、迷ってしまって、やるように言ってもやらない学生が出てきます。多分、勉強して成長すると自分なりの考えでやっていけるようになるんだと思いますが、そういう時は、こちらから目的を説明するとうまくいく場合が多いです。こちらの意図がわかってもらえると、行動につながります。

 それに、高校生の時は受験のための勉強をやってきてるので、大学でやることが将来役に立つという意識があまりないように思うこともあります。将来、知識や技術を使うために勉強しているという意識がある学生もいますが、そうでない学生が多いように思います。機械系の仕事でこの部分は使えると話すと、やる気がパッと変わってきます。こちらの意図をうまく伝えることができれば、すごくやる気を持ってやってくれるようになります。モチベーションを持たせるっていうのが難しいなっていう気がします。

 「学生に一言」って難しいですね。今、世の中が変わってきてると思うんですよね。AIが出てきたりで、ただその分の自由度も、増えてきていると思うので、自分が考えた分だけ、可能性が広がるような世の中になってきてると思います。ぜひ、自分で考えることを大切に、いろんなことを考えて挑戦につなげていって欲しいです。SNSで情報を受け取るだけじゃなくて、自分で考えることが一番大切で、そして、行動して欲しいです。

いろんなことを自分で考えて生活していくと、どんどん人生広がっていくんじゃないかなと思います。

 

 

6.佐賀について。

 

 佐賀は福岡から通勤圏内で、近いところが魅力です。今は福岡で暮らしているのですが、特急電車で30分です。通学している学生も多いです。うまく通勤・通学時間を使えるとすごくいいと思います。英語を聞くとか、本読むとかでもだいぶうまく利用できるかなと思います。このコロナ禍でしばらく大学に来れなかった時、読書量がガクッと減ってしまいました。電車の中で強制的に毎日1時間ぐらい読む時間があったのが、家にいると全然本を読まなくなってしまって。通勤は大変だと思ってたけど、いいこともあったんだなって思います。さらに、駅から自転車で20分(往復40分)の距離も運動になっていて、電車通勤も悪くないかなと思います。

 

 

7.休日はどのようにすごされていますか?

 

 一緒に映画を見に行くなど、子供の相手をしてると1日があっという間です。

 お茶が好きで、緑茶、紅茶、ハーブティーとか好きです。1日に1~2Lくらい飲んでますね。研究って座ってることが多いので、気分転換になっているようです。中国茶も結構好きです。

 乗馬を大学時代に部活で始めて、九州に来てからは福岡県の西戸崎の乗馬クラブで乗馬をしていました。子供が産まれると、時間が取れなくなって辞めてしまったんですけど。今はお茶か、通勤電車で読書か、子供と一緒にゲームしたりという感じです。乗馬はまた始めたいなと思っています。

 

 

8.今後の目標をお聞かせ下さい。

 

 まずは、「地中熱」が地下水を利用することでより性能良く使えるということを広めていきたいです。さらに、「地中熱」をはじめとした「未利用熱エネルギー(今まであまり利用されてこなかったエネルギー)」を資源として使えるような研究も発展させていければと考えています。現在、日本では、火力発電の占める割合が大きく、石油や天然ガスを1000~2000℃で燃やした際のエネルギーを利用して発電しています。一方、「地中熱」はちょっと発想が違いまして、外気との20℃ほどの温度差をエアコンなどの熱源に使って、消費エネルギーを減らすことができます。また、工場で出た100℃くらいのお湯は「廃熱」と呼ばれて、使われることなく捨てられてることが多い「未利用熱エネルギー」の1つです。「未利用エネルギー」はうまく利用していけば、必要なエネルギー量も減りますし、使う化石燃料の量も減らすことができます。工場の「廃熱」を単純にそのまま家庭にお湯として届けることができればいいのですが、工場から家庭まで2キロあったとして、配管で運搬中に熱が冷めて使えなくなりますので、「廃熱」のうまい使い道を見つけていかないといけません。日本だけでなく、世界中で山ほど捨てられていると思われるエネルギーですので、少しでも使えるようになれば、だいぶ状況が変わるかなと思います。

 

 

9.県下の企業・自治体・学校の中で何かをやるとしたらどんなことをやりたいですか?企業や社会人の方へ一言いただけますか?

 

 使われていない「廃熱」がたくさんあると思われます。それに対して、私が今すぐ解決策を出すというのは難しいですが、一緒に考えることはできると思いますので、もし「廃熱の問題」や、もう少し効率よく「熱」を利用できないかどうかというような、何かお困りごとがあれば、お声掛けいただければと思います。

 昨年まで、佐賀県の企業さんと共同研究を行っていました。最初はちょっと「熱」に関して相談に乗らせていただいていたことから始まったんです。全く関係のないところから、発展していくこともありますし、専門の私から見ると、多分見えてくることもあると思います。もしかしたらお役に立てるかもしれません。何か問題がありましたら、お声かけくださると有り難いです。