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HOME >  佐賀大学の教員紹介 > 『佐賀大学の教員紹介』医学部 看護学科 統合基礎看護学講座 柴山 薫先生

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2023.11.06
佐賀大学の教員紹介

医学部 看護学科 柴山薫助教

1:先生ご出身はどちらでしょう。

 

 出身は佐賀です。佐賀大学医学部のすぐ近くです。佐賀で生まれ育って、医学部の看護学科に進学、その後、佐賀県医療センター好生館で看護師として働いた後、教員として戻ってきました。



2:この道の先生になろうと思ったキッカケについて。 

 

 まずは、声を掛けていただいたということがきっかけとしてあります。もともと、大学の看護学科から修士課程に進もうと思った時は、看護師になるのかどうか進路で迷っていました。他の仕事にも興味があって、看護学科以外の就職活動を経験しました。思い描いた職種への就職が決まらず、「このまま看護師になってもな...」という迷いがずっと自分の中にありながら、「看護を知るためにも、もうちょっと学んでみよう」と思い修士課程に進むことにしました。修士課程はとても楽しく、充実していて、修士課程が終了してからは、好生館に勤めながら、修士の延長でそのまま博士課程にも進みました。そのような中で研究を通して、「やっぱり楽しいな」と思ったのと、臨床での迷いや悩んだことを、研究に繋げることができたということが大きいかなと。さらには常に研究が身近にあったことで、ここの教員として戻ってくるきっかけになったという感じです。また、臨床である程度働いてきた頃に、後輩の教育にも興味があって、教育と研究が両方できるという点も教員の魅力だと思いました。なかなか臨床での教育では、時間をかけて関わることができないんです。自分も働きながら後輩に教えていくので、病棟で困ったことにすぐ答えるとか、先輩から習ったように教えるといった風で、しっかり教育できたという感じが自分になかったんです。大学では、体系的にしっかり教育できるというところが臨床と違うところですね。自分もきちんと教育っていうものを学んでみたいと思ったのも教員になった理由の一つです。

 

 

3:学生に教えている授業内容について。


 学部生の授業では、主に1、2年生を担当し、基礎看護学領域を教えています。1、2年生には「看護技術」として、例えばベッドメイキング、血圧測定、洗髪等の基本的な実践を教えています。

 あとは「看護学入門」でキャリアデザインや理論についての話や、2年生になると、「看護過程」という科目にも携わっています。医師が病気の診断をすることを医学診断といいますが、看護師は「看護診断」を行います。この患者さんは「こういうところに問題があるから、こんな診断が上がるよね」と診断名を立てて、看護計画を立案し、実施して、評価するといったことを行います。看護も、医学と似たような感じで診断を行うのですが、患者さんの身体的な問題だけではなく、精神的な面、社会的な面等、色々なデータを収集して、全人的にその患者さんを捉えた上で、この患者さんは「今何が問題なのか」という点に対応していくところが違いますね。あとは、1、2年生が実際に患者さんと接する臨地実習も担当しています。

 その他に、私は「国際看護学」の修士と博士を出たので、「国際保健看護論」も数コマ担当しています。「国際看護とは」という部分を教えています。概要として言えば、「他者を理解する」や「異文化を理解する」といった教育になります。患者さんのこれまでの教育背景、文化的背景、過ごしてきた環境が違うため、どうしても生活習慣が日本と異なりますが、それを理解するためにどんなことが必要かなといったことを考えてもらっています。あと様々な問題を世界的な視点で大きくとらえて、看護を中心にSDGsの話とか、海外における学びの重要性も伝えています。

 色々と授業を担当させてもらっているのですが、特に、看護技術の授業においては、自分以外の他者に何かしらの技術を提供するという、専門職としての責任が伴うので、特に重点的に教えているつもりです。技術を身につけることは当然のこととして、例えば患者さんの血圧を測定する時に、ただ「血圧計りますね」と言うよりも、「体の状態を知るために、血圧を測らせてくださいね。今いいですか?」とか、その「患者さんを思って声をかける」とか、「患者さんが置かれた立場ってどうなのか」とか、結構その辺を意識して言葉かけや声掛けするようにということも教えています。先程、話しに出てきた「看護診断」で考えると、医師の診断では、検査をして病気を発見して診断、治療となりますが、「看護診断」では疾患を持っている患者さんが、どんな生活をしてて、どんな社会的背景があって、困っていることは何だろう、痛みだけが問題ではなく、もしかしたらこの人は今病気になったことで、何か自分がやりたかったことができなくなってるかもしれないとか、疾患だけではなく、患者さんの困りごとや周辺の状況等も捉えながら考えていきます。身体のことだけではなくて、「心のこと」、「社会的なこと」、「すごくつらい事に対してどう対応していこうか。その人を患者としてだけでなく、まずは人として大切にみていきましょう」という考え方を大切にしています。そういうことを学生時代から伝えていって、看護師になったら色々な人と接し、他者を受け入れながら、対応していくことができるようになってほしいと思っています。「看護師」は、もちろん知識、技術はとても大事ですが、私は、基本はやはり「人間力」なのかとすごく思います。



4:学生にむけて一言いただけますか?

 

 学生のうちに色々な人と接するとか、色々なことにチャレンジをするとか、たくさんの経験を積んで欲しいと思います。私は「看護って答えがない」と常に思っていて、例えば医師の治療であれば、疾患に対して、手術や化学療法等の治療を行い治ったりしていきますが、「看護」というと自分が実践したことでの劇的なアウトカムってすごく難しい場合も多いと思うんです。患者さんの問題に気づいてアプローチしますが、当然すべての患者さんは違いますので、対応はその場その場で変えていきますし、得られる反応も患者さんによって変わります。「私が行ったことって、効果あったのかな?」とか、「もう少しうまくできたんじゃないかな?」とか常に臨床の中では考えていましたね。このような中、看護師と患者さんとがよりよい関係を築いておくっていうのも、看護を行う上で、とても大切なキーになると思うんです。だから、座学の勉強だけではなく、色々な人とのコミュニケーションや、色々な学びっていうのが後で生きてくるのではないかと思います。学生にはどんどん色々なことにチャレンジして欲しいと思います。大学の中に閉じ込もらずに、学生のうちに幅広く目を向けて勉強して欲しいと思っています。自分自身、海外のいろんな文化・社会背景を知るのがとても好きで、医療派遣で3週間カンボジアへ、研修で3週間アメリカのメイヨークリニックに行かせてもらいました。今はSNSも普及していて、海外に行かなくても学べることがたくさんあると思うのですが、実際行ってみないとわからない事、その場所の空気感であったり、行ったことでのみ得られることがたくさんあると思います。私としても、あんまり国だとか、別に日本という枠にあまりとらわれていないのですが、ぜひ海外に目を向けて、どこでも行ってみた方がいいのではないかと思います。



5:佐賀に住んでよかったこと。


 ずっと佐賀なので、改めて考えてみたことはあまりないんですが。人が温かいと思いますし、住みやすいです。お酒が好きで、佐賀のお酒は美味しいですね。佐賀は居心地の良さがあります。誰とでも繋がってる感じがあって。住みづらいという方もいるかもしれませんが、私としては横との繋がりが結構あるので、すごく住みやすいし、仕事もしやすいと思います。自分にとっては、好きですね。



6:休日はどのようにすごされていますか?


 休日は、なかなか研修や姪っ子甥っ子のお手伝いで行けないことも多いですが、サーフィンのために糸島へ行きます。昨日も行って荒波にのまれてました。5年ぐらい前に始めて、半年か1年ぐらいやって、4年間ぐらい中断していたんですけど、ずっと家の中にサーフボードがあるのが気になっていて、3ヶ月前ぐらいから再開したんです。先生に楽しく教えてもらいながら、みんなで和気あいあいと一緒に海に入って、終わったらコーヒー飲んで、という休日です。私は全然大きな波とかには行けなくて、手前の方で波に乗るんですが、できるようになる過程がやっぱり楽しいですね。うまい人を見て、あんなになれたらいいなって思いながら、できることを着実に積み重ねて、練習に励むっていうプロセスを楽しんでる感じです。波が高いと怖さもありますが、楽しさもあります。無心になれて、何でも忘れられるというところがよくて、とりあえず来る波に身一つでいくわけなので、何か色々考えることもできないんです。そのONとOFFがいいですね。



7:研究についてお聞かせください。


 「非アルコール性脂肪性肝疾患の患者教育」というテーマで研究をしています。お酒を飲んでないから大丈夫と思ってる方も多いと思うんですが、B型とかC型肝炎とか、そういったウイルス性のものは別として、飲まない人でも、生活習慣がよくなかったり、代謝の問題があったりすると「脂肪肝」になることがあります。研究では、まずは「脂肪肝」をご存じない方に向けて、「食べ過ぎや運動不足といった生活習慣から脂肪肝、肝硬変、肝がんにつながることがあります」ということを知ってもらうことをベースに、「動機づけ面接法」という方法にも注目しています。患者さんは「食べたらいけない」とか「何か運動しないといけない」っていうのは分かっていらっしゃるんですけど、多くの方が踏み出すことができなくて、行動につながらないといった状況があるかと思います。そこで「どのように動機づけながら、患者さん自ら行動を行ってもらうのか」という「行動変容」に結び付けていくようなプログラムを考えています。

 私は「患者教育」という言葉があまり好きではなくて、「患者さんへの説明、情報提供」とか、「患者さんの行動変容」とかいう言葉で言い換えた方がよいのかと思うんですが、「どう患者さんに自分の行動を変えてもらうか」というところを伝えていくことが重要と私は思っています。自分に置き換えても、思い当たるんですが、例えば「ちょっとは歩いた方がいい」とか「甘いものを控えといた方がいい」なんていうことは理解できているけれども、でもそれができないというところがもどかしいですよね。それを「どういうふうにサポートしていくか」ということです。「患者さんの行動変容」を促す際に特に難しいのは、既に生活が組み上がっていることですね。ご本人の価値観、性格、環境、仕事とか色々な要因が組み合わさって個人の生活ができているわけで、そこをほどいていく作業が必要となります。研究では、「動機づけ」や「行動変容」に注目したプログラムを考えていますが、当然、万能ではないです。個人で少しずつ違いますので、100人中1人に効果があればいいかなというくらいのものかも知れません。このプログラム構築には、インストラクショナルデザインの考え方も教えてもらいながら、取り入れているんですが、私自身まだ学ぶことばかりですね。「動機づけ」については、その人の価値、信念を掘り下げていくようなことを行っていきますが、他者との対話はすごく奥深いと思って今、私も学んでいるところです。病院を中心とした医療関係者だけでなくて、産業保健関連や学校関連、司法関連や矯正施設(少年院や刑務所)の方々など多職種の方と一緒に勉強してます。学びが多くて、とても楽しいですね。

 あと、私自身も「行動変容」に取り組んでいて。去年の6月から筋トレを始めたのですが、これは皆さんが思うような筋トレではなくて、「肝疾患センター」のホームページの、*ヘパトサイズというトレーニング(主に脂肪肝の方・予防したい方向け)です。私は筋トレがすごく嫌いだったのですが、肝疾患センターで筋肉量や体脂肪率を測定した時、栄養士さんに「あんたやばいよ」って言われまして(笑)、ヘパトサイズをやりはじめたんです。患者さんの「行動変容」の研究をさせてもらってるので、「行動を変えて続けるってどんな気持ちなのかな」と思って始めました。毎日筋トレ(スクワット、腕立て伏せ、時に腹筋)を30回ずつやっています。最初はカレンダーに丸印をつけてたのですが、もう最近はそれもいらないです。「やらないと気持ち悪くなる」という感覚があります。患者さんへのインタビューでも「やらないと気持ち悪くなる」とのことで、自分でも同様の体験をしながら研究をやっている感じです。多分習慣化されていくといいのかなと思います。あと、周囲に「宣言する」のもいいように思います。「動機づけ」の中でも、「じゃあ、これからどうしましょうか」と尋ねた時に、「〇〇します」って言うと、「言ってしまったからにはしないといけないみたいな気持ち」が発生するらしく、しないといけない気持ちによる一定の効果はあると言われています。また、記録した結果として体重が減ったり、何かしらの目に見える効果があると続ける意志につながっていると、研究データをみていると感じます。面白いと思うのは、研究対象の方々で、運動とか食事療法を続けている皆さん全然無理をされないんです。ゆるく取り組むことが、続ける秘訣なのかもしれません。50mダッシュという感じではなくて、フルマラソンを完走できるぐらいのペースで走っていった方がいいのかなという感じがします。


*ヘパトサイズ:佐賀大学と久留米大学が共同で作成した、脂肪肝の患者さん向けの運動動画https://sagankan.med.saga-u.ac.jp/illness-treatment/4767.html


 また、好生館では「化学療法を受ける膵癌患者のQOL」についての研究にも携わりました。好生館の内科病棟や外来にて、肝臓・胆嚢・膵臓疾患の患者さんに関わってきたんですが、膵臓がんの患者さんって60代とかの方とか比較的若くして亡くなられる方がいらっしゃって、そして予後(*今後の病状についての医学的な見通し。「病院の言葉」を分かりやすくする提案より)が悪い場合が多いんです。外科的な手術が難しい患者さんが来られる内科では、化学療法といって抗がん剤治療をするのですが、予後が1年とか、数カ月とか短い患者さんたちにどう対応したらいいのか、何となく自分自身が悩んでいた部分が大きかったですね。患者さんのご家族やご本人にも「やっても半年延びるだけやろ」とか「自分だったらするの?」と言われたんです。抗がん剤治療しても予後がとても伸びるわけでなくて、「何もしなくて予後が半年だった場合、抗がん剤治療してそれが1年に延びるメリットって何なんだろうか?」とか、それが3年とか延びるなら多少違うのかもしれませんが、「もしかしたら半年延びるかもしれない」という可能性にかけて、きつい抗がん剤治療をする必要があるのかという患者や家族目線でどうかなのか悩みました。
 研究をし始めた時、膵臓がんに効果がある抗がん剤が大きく進歩始めた頃だったんです。だからこの薬を使用することで、「予後は伸びるけど、QOL(*その人がこれでいいと思えるような生活の質。「病院の言葉」を分かりやすくする提案より)はどうなんだろう」というところを調べようと思いました。予後も伸びるのに加えてQOLも維持できるなら、研究する意味があるかなと考えました。自分たち医療者は治療を実際には受けることはできないけれど、この治療を受けた患者さんたちは実際どうだったんだと自身を持って結果を伝えれると思ったんです。海外では結構QOLが測定されてはいるのですが、日本の膵臓がん患者さんを対象に、そしてその抗がん剤を使用した上でのQOLデータはその時にはなくて、「実際臨床の患者さんってどうなのかな、本当にこの抗がん剤治療を受けた患者さんって、幸せになってるのかな?」と思ったんです。QOLの調査は、がん患者さんに適した質問を組み合わせて行いました。基本的には半年間くらい1ヶ月おきにQOLを調査し、結果「最初の化学療法を始める直前から6ヶ月までQOLは大きく下がらない」ということがわかりました。長期データは、患者さんの数が少なくて出せず心残りではありますが、大幅にガクッと下がる人はいませんでした。

 この研究では、一緒に働いていた医師や看護師が快くご協力くださいました。博士論文での取り組みで、患者さん1人1人に関わらせてもらい貴重な体験でした。最期には皆さん亡くなっていかれますので、見送るのはつらくはありますが、ずっとお付き合いしていくので、患者さんの側も結構相談をして下さるようになったり、こちらもできるだけ情報提供したりで、いい関係は築けていったのかと思います。その中で、患者さんだけではなくご家族とも親しくなっていくんです。もちろん長く生きていただきたいんですが、どうしても終わりを迎えることが近いわけです。だから「いかにどれだけハッピーに余生を過ごせるか」というのを考えながら関わっていきました。ものすごい貴重な経験で、30名の患者さんにご協力いただいたのですが、すべての患者さんの顔が思い浮かびますし、患者さん達の人生を背負ってたと言うほどではないのですけど、大切な人生に関わらせてもらったというところが、自分の中では意義的にはすごい大きいですね。



8:県下の企業・自治体・学校の中で何かやるとしたらどんなことをやりたいですか。9:今後の目標をお聞かせください。


 今「脂肪肝」の研究に取り組んでいますが、、患者さんの「脂肪肝」が良くなることはとても大切なことではありますが、、私の中では成果としてとても重要視しているわけではないんです。「脂肪肝」が良くなることで、「患者さんの生活がハッピーになる」、「QOLが上がる」、「人生が豊かなものになればいいな」と思っていますので、「脂肪肝」の治療を通して、「様々な人の生活習慣や行動を変える」ということに携わっていきたいと思っています。これは、医療だけでは当然解決できないですから、色々な自治体、地域、企業の方々とコラボレーションして「その人その人にとってのより良い生活ができるための取り組み」に何か協力できたらいいなと思っています。漠然としていますが、私自身は、それぞれ一人一人の生活にすごく興味があって、そこに医療が関われるのはほんの一部だと思うのですが、例えば「今日から自分は10分歩く」とか「今日からお菓子は1個にする」とかなんでもいいので生活習慣を変えて、それを達成することによって、その人の自信に繋がって、その人の生活が楽しくなったり、豊かになったり、最終的には健康に生きるということをお手伝いできたらいいなと思っています。今後は、幅広い年齢層の対象の人に関わっていきたいと思っています。