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HOME >  佐賀大学の教員紹介 > 『佐賀大学の教員紹介』 農学部 井上奈穂先生

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2021.11.15
佐賀大学の教員紹介

農学部 生物資源科学科 生命機能科学コース
食品機能開発学分野  井上奈穂 准教授

 

 

1.ご出身はどちらですか?

 

 福岡県の糸島市です。就職して以降、十数年東日本にいた間に、糸島はインスタ映えスポットなどもでき、どんどん盛り上がって、気づいたら「移住したい都市」にもなっておりました。帰省のたびに、少しずつ発展して流行っていく様子に、正直、若干の違和感を感じてはいましたが、良いところで生まれ育ったなと思います。

 

 

2.この道の先生になろうと思ったキッカケについて

 

 私は佐賀大学農学部出身なのですが、農学部を選んだきっかけは「入ってから、自分の好きなこと、やりたいことが見つけられそうだな」ということからでした。学部3年次に細胞培養や動物実験に興味が湧き、食品栄養化学研究室を選びました。配属後、食品由来の機能性成分について細胞や動物で研究を開始し、「研究って面白い!」「もうちょっといろいろできるようになりたい!」という気持ちで修士課程への進学を決めました。博士課程への進学はちょっと悩んだのですが、修士1年次にやっていた研究がただただ楽しかったということもあり、その結果、「もう少しだけ研究続けてみて、もうダメだな…と思ったら、そこから就職活動を始めるのもアリなのでは?」と考えて決断しました。その後、「何か面白いことはないかしら?」を基本に「もうちょっと、あとちょっと」という感じで続けて現在に至ります。あと、学生時代の指導教員に恵まれたっていうのが、進学のきっかけとしても、この道の先生になろうとしたきっかけとしても、かなり大きいです。当時培われた「後々、やらずに後悔するぐらいなら、やって後悔した方がいいのでは?」と私の関心や興味、情熱を傾けられる研究対象への芽を摘まず、のびのびやらせてもらえたので。こんな先生になるべく、さらに精進していきたいと思っています。

 

 

3.研究や研究の魅力についてお聞かせください。

 

 私は元々、食品栄養化学の食品機能学が専門で食品由来機能性成分による病態発症や改善に関して研究しています。令和2年7月から「食品機能開発学分野」に着任し、現在は主に「植物由来成分の機能性評価」や「機能性脂質による生活習慣病の予防・改善」が主な研究テーマです。佐賀県は農水産業が盛んなので、これまで研究されていない農水産物や廃棄物などの有効活用などを模索出来たら面白いなと思っています。私、前任地は山形大学だったのですが、山形は佐賀同様農業が盛んな土地なんですよね。そこで、工学部の食品加工、農学部の食品分析の先生がたと共同研究する機会が得られ、その研究の中で加工法が異なる食品を病態モデル動物に摂食させると、病態発症に与える影響が異なることや、生体内での吸収や代謝も異なることがわかってきました。加工法が違えば、成分量や成分組成が異なり、またそれに伴って機能性が変わるというのは、基礎研究としても応用研究としても興味深い内容だと思っているので、今後はそれらを活かして、食品成分の新規の機能性等を発見できるよう頑張りたいと思っています。
 また、学生時代から現在に至るまで、一貫して「食品由来機能性成分による生活習慣病の予防と改善」というテーマで研究しています。人間は生きていくためには食べることは必要不可欠なのですが、食べ過ぎてしまうと肥満や脂質異常症、糖尿病などのいわゆる「生活習慣病」を発症することにもなってしまいます。病気が完全に発症すると治療する以外に方法はなくなってしまうので、それを予防する、また発症以前の状態(予備軍)で改善する、というのが大切です。それに寄与する食品成分を発見・同定し、さらにその作用メカニズムを明らかにするというのが大まかな概要です。生体内の各種マーカー、酵素活性、遺伝子発現などさまざまな観点から作用メカニズムの解明を目指すのも簡単ではないのですが、研究を進めていく上で現象が現れないことには作用メカニズムの解明には至らないのがなかなか難しいところではあります。

 

 

4.学生に教えている授業内容について

 

 農学部で「栄養化学」「食品機能化学」「生物資源化学」を担当していますが、メインで担当しているのは「生物資源化学」です。インターフェース科目では医学部の「食と健康」の一部を担当しています。「生物資源化学」では食の3次機能、保健機能食品、機能性食品素材としての生物資源について講義しています。例えば、キノコに含まれる機能性成分としてはベータグルカンが有名なのですが、それがどういう特徴を持っていて、キノコおよびベータグルカンが機能性食品素材としてどのように利用されているかなどを実際の製品事例なども挙げて説明しています。座学で学ぶ内容が実際に活用されている事例を知ることは、今後の学生の進路を考える上でも大事なのでは?と思っているので、特定保健用食品や機能性表示食品などの品目等はよくチェックして、その内容を反映させるように工夫しています。「食と健康」では、食品衛生や食品表示に関することを教えています。こちらの講義は医学部医学科や看護科の学生さんが多いので、もっと一般論的な話をするのも良いのでは?と思い、例えば食品添加物と聞くとすごく身体に悪いイメージがあるけれども、食品の保存とか食品を美味しくする観点から重要なものも多々あることや、または食中毒を避けられるように、例えば過熱が十分でないと生ガキがどう危険かということや、季節によって食中毒を防ぐためにはどうしたらいいかというようなことも教えています。

 

 

5.学生に向けて一言いただけますか?

 

 2021年11月現在、コロナ禍ではあるものの一時期に比べればだいぶ落ち着いてはおりますが、昨年度から今年度に至るまで、リモート講義が多く、それに伴って、日々、小テストやレポートが多く課され、本当に大変だと思います。なかには講義だけでなく大学生活に対して「嫌だな」とか「やりたくないな」と重荷に感じ、特に、学部1・2年生は大学に来たっていう実感もないままで、大学生活を難しいと感じたりしているのでは?と心配しています。学年が上がると専門性も増してきて、それに伴って、ひとつの講義あたりの参加人数が減るので、対面授業も増えて、各自の興味の対象もだんだんと定まり、今後の方向性のようなものもはっきりしてきます。目的意識がはっきりしてくると、結構学校が楽しくなって大学生活を活発に送ることができるようになると思います。また、オンラインだと好きじゃないもの(講義)、苦手意識があるもの(講義)に対して、対面以上に避けたい気持ちがますかもしれませんが、実は自分は苦手だなとか得意じゃないなと思っていることでも、そこから新しい発見や興味を得ることもあります。あまり無理しすぎて辛くなるのはよろしくないけれど、苦手なこと、できないことを最初から避けたり、早々に諦めたりせず、「もう少しだけやってみよう」という気持ちでちょっと一呼吸分だけ頑張ってもらえたら、自分の知識が広がるようなふとしたキッカケに出会えたり、楽しくなったりするんじゃないかな〜と思います。

 

 

6.佐賀に住んで感じたことは?

 

 住んでいてラクだなって思います。何よりコンパクトだし、平面だし(笑)。「都会に行きたい」と思えば福岡があって、「田舎でのんびり」と思えば、温泉地は県内各所にたくさんあるし。佐賀は九州の真ん中あたりだから、九州各地へのアクセスも良いですしね。もちろん、佐賀県北部と南部で全然雰囲気も違って、地域ごとの魅力もありますし。「よし!旅行しよう!」と肩肘張らなくても、ちょっと足を延ばせば楽しいことが周りにあるっていうのは良いところですよね。ただ、朝晩の車の渋滞には辟易しています。どうにかなりませんかね?

 

 

7.休日はどのように過ごされていますか?

 

 基本はインドアです。動物実験や細胞実験をしていると土日休日関係なく、飼育も培養もあるので、それ以外は家でのんびり音楽をかけて本を読んだりすることが多いです。本は小説でもエッセイでも評論でも漫画でも何でも読みます。活字が好きな雑食タイプなんです。あと、料理が趣味なので、パンを焼いたり、ケーキを焼いたりもします。職業柄、自宅でパンやケーキを作る際には、計量しながら「これだけ入れたら何キロカロリーだな」と頭によぎり、「まあ、これだけ栄養源が入っていて、これだけカロリーがあったら、そりゃ美味しいに決まってるよね」と思いながら作っています(笑)
 気分転換もかねて本格的にやるぞ!というときは料理教室に行ったりもしますよ。広いところで作るほうが断然ストレスがないし、新しいレシピのほうが余計なことを考えずに無心でやれますからね。
 自宅で作っても、外で作っても、自分で食べるよりは誰かにふるまうほうが好きなので、作ったものは家族や友人にプレゼントしたりしています。

 

 

8.今後の目標をお聞かせください。

 

 学生時代から続けている研究テーマはずっと続けていきたいです。またせっかく佐賀に戻ってくることができたので、今後はもっと佐賀に関連した研究をやっていきたいですね。佐賀県の農水産物から科学的に根拠の成分や機能性を見出して、佐賀県の農水産物の魅力を付加出来たらと思います。現在、食品の加工法の違いによる食品成分の変化や機能性成分の相加・相乗にも興味があり、また、以前、農水産業で出る廃棄物から有効成分を見つけて、その成果を論文化したり、県や企業と連携して製品化したりしたという経験もあるので、それらの知見も活かして、いろいろ面白いことをやるのが目標です。
 高齢化社会が進行する日本において、健康で長寿であることが今後大事になってくると思います。病気や寝たきりで長生きするのではなく、病気にならない身体づくりを心がけるのが重要です。その一助として食品が存在しているのですよ、科学的に証明されているのはこういうことですよ、などの食品の機能性や安全性に関する啓蒙活動も積極的にやっていきたいと思います。

 

 

9.県下の企業・自治体・学校の中で何かやるとしたらどんなことをやりたいですか?

 

 厚生労働省が公開している「国民健康・栄養調査」に「食生活に影響を与えている情報源は?」という項目があって、一般の方々がどういうところから食に対する知識を得ているかっていう統計データがあるんですよ。それを見ると世代別で情報源が違うというのが明白で、食生活に限らず日々の情報源が何かっていうのも推測できて面白いです。それによれば、食生活に関する情報源は年配の世代は圧倒的に「テレビ」が多いのに対し、若い世代は「テレビ」と「SNS」が同程度、そして、世代に関わらず「家族」や「友人知人」が情報源というのはどの世代でも一定数いる、さらにどの世代もけっこう割合が高め、なのです。私は食品に関する講義も多く、また研究テーマの根本は「食の機能性・安全性」なので、私の講義や講演を通じて、食に関する正しい知識を多くの学生さんの頭の片隅にでも置いてもらって、その知識を身の回りの人に伝えてもらうというのが目標です。さらに、中高校生や一般の公開講座などでは、「テレビにしても、インターネットやSNSにしても、全部が全部正しい情報ばかりではないので、何でも信じすぎたらダメだよ」「情報の真偽をきちんと確かめることは大事なんだよ」などのことを実際の研究報告事例なども交えつつ、食に関する正しい知識を伝えていきたいと思っています。