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HOME >  佐賀大学の教員紹介 > 『佐賀大学の教員紹介』 全学教育機構 中尾 友香梨 先生

佐賀大学の教員紹介

2021.05.17
佐賀大学の教員紹介

全学教育機構 中尾 友香梨 教授

 

 

1.この道の先生になろうと思ったキッカケについて

 

 特にこれといったキッカケはなく、ただできれば自分の好きなことを仕事にしたいなあと、ぼんやり思っていました。そして興味を覚えたことに打ち込んでいるうちに、気がついたら、この道に入っていた、といったところでしょうか(笑)。
 不器用な人間なので、民間企業でバリバリやっていく自信もないし、興味を持ったものをコツコツと調べることが好きなので、自分は研究者を目指すしかないかなあと、なんとなく思っていただけです。

 

 

2.研究についてお聞かせください。

 

 現在は主に佐賀の歴史文化について調べています。特に、歴史に埋もれた佐賀「賢」人を掘り起こすことに、力を入れています。
 きっかけは、本学の地域学歴史文化研究センターに収蔵された一巻の巻物でした。内容は、徳永雨卿という人物の60歳、70歳、74歳の誕生日を祝う友人・知人たちの漢詩文や和歌を集めたものですが、その友人・知人の顔ぶれが錚々たるものだったのです。江戸中期のけっこう知名度の高い文人・儒者たちが名を連ねているわけです。
 しかし、徳永雨卿本人に関する記録はほとんど残っておらず、歴史人名辞典などにも載っていないので、最初はかなり戸惑いました。巻物を読み解いていく中で、ようやくその経歴や人物像が徐々に明らかになってきました。多久出身の人で、長崎で医術を学び、江戸に出て活躍しました。そして、佐賀藩第8代藩主の御典医(専属医)として召し抱えられ、江戸藩邸に仕えました。また、江戸に遊学してくる佐賀の若者のために、人脈を提供したり、生活の面倒を見たりと、いわば江戸の佐賀人ネットワークを支えた重要な人物であったことも、徐々にわかってきました。
 もしもこの巻物がなかったならば、徳永雨卿という人物は、おそらく歴史に埋もれたまま、そのうち完全に忘れ去られてしまっていたことでしょう。しかも、この巻物をきっかけに、雨卿と同じく多久出身で、藩主の侍講(学問の師)を務め、藩校弘道館の創設と運営にも携わった、石井鶴山という人物にも出会えました。そして、約870篇ほどあるその遺稿を活字化したものが、このたびようやく刊行される運びとなりました(『石井鶴山先生遺稿』、公益財団法人孔子の里、2021年5月)。
 佐賀には、歴史に埋もれた賢人がまだまだ大勢います。人々の記憶からすっかり忘れ去られてしまう前に、まずはわたし自身が頑張って掘り起こし、後世に伝えていく必要があると痛感しているところです。もちろん人物だけでなく、史実も同じです。
 3年ほど前に、『佐賀城下にあった幻の大名庭園―観頤荘(かんいそう)』(海鳥社)という本を出しました。庭園が存在したのは、今から約300年前の元禄時代です。場所は現在の赤松町南部と鬼丸町西部、つまり本学のすぐ東側になりますが、総面積はなんと3万5千坪ほどあったのです。東京ドームの2倍半弱ですね。しかも園内には、大きな池をはじめ、築山、滝、川、船、太鼓橋、展望台、楼閣、茶屋、茶室、月見台、鐘楼、馬場、藤棚などが盛り沢山とりそろえられ、外国の珍しい動物や鳥を飼育する、今日の動物園のような施設もあったようです。規模と設備のいずれにおいても、近世前期の日本においては、まさにトップレベルの大名庭園であったといえます。庭園の中央には、学問所の象徴とされる聖堂があったのも興味深いです。
 庭園があった場所は、今は住宅が密集しており、かつてそこに豪壮な大名庭園が存在したことを知る人は、きわめて少ないと思いますが、実は水路や道路はまだ当時の面影をしっかり残しています。衛星写真で確認すると、ほとんど形が変わっていません。
 金沢の兼六園や、水戸の偕楽園、岡山の後楽園といった日本三名園に勝るとも劣らぬ大名庭園が、跡形もなく姿を消してしまったのは、非常に残念ですが、もっと残念なのは、かつて佐賀城下にそれほど立派な大名庭園が存在した、という歴史的記憶すら、ほとんど残っていないことです。
 佐賀の歴史文化といえば、どうしても幕末・明治維新期にスポットライトが当てられがちですが、個人的には、江戸前期も、中期も、そして後期も大変興味深いです。先行研究も、幕末・明治維新期をテーマとするものが圧倒的に多い中、これまで他の研究者があまり注目してこなかった、幕末以前の人物や史実を掘り起こすことに、力を入れていこうと思っています。

 

 

3.学生に教えている授業内容について

 

 学部生向けの授業を一つ、例に挙げますと、インターフェース科目の「歴史文化」というプログラムを担当しています。「インターフェース」とは、もともと「接点」または「境界面」などを指すコンピュータ用語またはIT用語ですが、一般的には「2つの異なるものを仲介する」または「つなぐ」という意味でも使われていますね。
 「インターフェース科目」とは、「大学」と「社会」を「つなぐ」という意図でつくられた科目群のことであり、学生たちが将来、社会に出て、大学で学んだ知識や技能を有効に活かし、一人の自立した人間として、力強く生きるために必要な能力を培うことを目的としています。
 このように他の科目とは若干異なる意図をもってつくられた科目群であるゆえ、インターフェース科目で重要視されるのは、通常の筆記試験などでは計れない、さまざまな能力を、身につけさせることです。例えば、学生たちが自らさまざまな課題を見つけ出し、その課題を解決するための計画を立てる能力、そして課題解決のために必要な情報を文献とインターネットを駆使して調べる能力、さらに収集した情報を整理・分析する能力、また分析結果にもとづいて自分の考えを導き出してまとめる能力、最後にプレゼンテーションのためのパワーポイント資料を作成する能力、およびプレゼンテーションで自分の考えを他人にわかりやすく説明できる能力などです。なお、他人の説明を聞いて問題点を見つけ、質問またはアドバイスができる能力、他者の質問の内容を正しく理解し、的確に答えられる能力なども必要ですね。
 インターフェース科目は、基本的に2年次前・後期と3年次前・後期の4科目で一つのプログラムが構成されています。わたしが担当する「歴史文化」プログラムは、まず2年次前期に「鎖国時代の異文化接触」をテーマとしています。学生たちには、まだまだ「江戸時代は鎖国だった」という固定観念が強すぎて、最初は「鎖国時代に異文化接触?そんなのあり?」と戸惑いますが、自分で調べていく中で、「驚いた」「意外な発見が多かった」「江戸時代のイメージが変わった」といった反応が返ってきます。
 そして2年次後期は、映画評論家の西村雄一郎先生が、「映画で学ぶ幕末維新」というテーマで授業をご担当くださっています。とても人気の高い授業です。
 3年次前期に再びわたしが担当しますが、テーマは「佐賀賢人の足跡」です。学生たちが佐賀賢人について調べ、その成果を発表していく中で、賢人たちの生き様から少しでもヒントになるものを見つけてほしい、という思いがありますが、現にわたし自身が力を入れて取り組んでいる研究が、歴史に埋もれた佐賀「賢」人を掘り起こすことですので、自分の研究成果を一部、授業内容に反映させたい、という思いもあります。
 3年次後期は、「地域の文化遺産」をテーマとしています。学生たちには、地域の文化遺産について調べて発表してもらっていますが、文化遺産がある場所に自ら足を運んで調査または取材を行い、その内容を発表に盛り込むことを、必須条件としています。そうすることで、佐賀の文化遺産に直接ふれ、少しずつ愛着を覚えてもらうようにすることがねらいです。特に県外から来た学生は、佐賀の歴史文化についてほとんど何も知らないまま、4年間過ごして巣立っていく人が多いようですが、それは非常に残念なことです。少しでも佐賀の良さ、伝統文化や歴史遺産にふれてもらいたいというのが、わたしの願いです。そしてあわよくば、佐賀で就職してくれることですね(笑)。
 地元出身の学生の場合でも、それまでほとんど関心を向けることがなかった地域の文化遺産について、初めて真剣に調べていく中で、実は自分が生まれ育ったこの町に、素晴らしい文化遺産がたくさんあることに、気づいて驚いたりします。学生たちにとっては、一種の探検のようなワクワク感や達成感を味わう良き体験にもなっているようですね。非常に楽しそうです。
 わたしとしては最終的に、学生たちにはさまざまな能力、つまり先ほど挙げた、問題解決能力や、リサーチリテラシー、観察力、洞察力、分析力、思考力、行動力、自分の考えをうまくまとめて説明できる能力、他者の説明を聞いて正しく理解できる能力、他者と協同して何かを成し遂げる能力などを、身につけさせるのが目的ですが、「歴史文化」というテーマは、わたしにとっても、学生たちにとっても、その訓練を楽しくやり遂げるための、良きツールになっているのではないかと思います。

 

 

4.学生に向けて一言いただけますか?

 

 もっといろんなことに、興味や関心、好奇心を持って欲しいです。例えば、通学路に神社があれば、ただ毎回その前を素通りするのではなく、「この神社はいつ頃からここに建っているのだろう?」「誰が建てたのだろう?」「どういう由来があるのだろう?」と、興味・関心・好奇心をもって、時間を見つけて立ち寄って見学をするなり、スマホで調べてみるなりしてほしいです。そうすることによって、いつもの通学路がもっと楽しくなるはずです。

 

 

5.佐賀に住んで感じたことは?

 

 市街地からちょっと足を伸ばせばすぐ、海があり、山があり、川があり、田畑が広がっているので、気軽に自然にふれられるのがいいですよね。わたしは特に麦畑が好きです。佐賀に来て初めて間近で麦畑を見たとき、ひどく感動したのを覚えています(笑)。いまでも、仕事がうまくいかなくて悩む時や、研究でつまづいた時は、よく麦畑を見に行きます。果てしなく広がる緑色または黄金色の絨毯を、夢中になって眺めていると、不思議に気持ちが落ち着いてきます。

 

 

6.休日はどのように過ごされていますか?

 

 休日もだいたい、平日にたまった仕事を片付けたり、授業の準備をしたり、学生たちから提出された課題を点検したり、文献を読んだりして、終わってしまうことが多いのですが、少し時間の余裕があるときは、お菓子作りを楽しんだり、ちょっと遠くまで散策に出かけたり、映画を見たりします。たとえ何もしなくても、ゆったりと流れる時間を味わうことができれば、わたしはそれだけですごく充実感を覚える人間ですが、忙しくてなかなか思い通りになりません(笑)。

 

 

7.今後の目標をお聞かせください。

 

 歴史に埋もれた佐賀「賢」人を、1人でも多く掘り起こすことでしょうかね。

 

 

8.県下の企業・自治体・学校の中で何かやるとしたらどんなことをやりたいですか?

 

 地域の歴史文化の研究と町おこしを連携できないかと考えております。例えば、佐賀城下に実在した大名庭園「観頤荘」を、小規模でいいので、復元するか、模型を制作するか、あるいはCGやVRで映像化するなども、一つの手かもしれません。
 佐賀には、眠っている歴史的文化遺産がたくさんあります。行政に携わる皆さまには、ぜひそれらに目を向けてほしいです。町おこしの材料はたくさんあります。協力し合えば、いろんな形で町おこしに少し貢献できるかもしれません。

 

 

9.全学教育機構の生涯学習センターについてご紹介いただけますか?

 

 本学の生涯学習に関する業務は、2017年度まで社会連携課が担っていましたが、2018年度から全学教育機構に移行し、2019年4月に生涯学習センターが設置されました。現在、センター長1名、副センター長1名、委員10名(各学部教員7名、全学教育機構教員3名)、職員2名の体制で運営しています。
 業務としては、従来実施してきた公開講座に加えて、2019年度後期からは、大学の正規の授業科目の一部を、社会人や一般市民に開放する「授業開放」も実施しています。
 今、教養科目と専門科目を合わせて計30科目ほど開放しています。学歴の制限等はもうけていないので、基本的にどなたでも受講が可能です。大学の正規の授業を、学生たちと一緒に受けられるのが、一つの大きなポイントになろうかと思います。授業形態も、従来の対面授業に加えて、昨年度からはオンライン授業も実施しています。したがって、遠隔地に住んでいらっしゃる方でも、ご自宅で本学の授業が受けられます。特に今、新型コロナウイルス感染症の拡大が懸念される中、大学のキャンパスまで足を運ぶ必要なく、ご自宅で大学の授業が受けられるのは、便利であろうかと思います。
 今のところ、授業開放はかなり好評です。学生たちと一緒に授業を受けることで、学生気分が味わえ、一般的な市民講座とはまた違った楽しみがあるようです。若い頃に戻ったようなウキウキ感や懐かしさを覚える方も多くいらっしゃるようです。ご興味のある方は、ぜひ下記へお問い合わせください。

◎佐賀大学全学教育機構生涯学習センター
電話番号 0952-28-8334

E-mail kouza★mail.admin.saga-u.ac.jp

※上記の「★」記号を「@」記号に置き換えてください。

http://www.oge.saga-u.ac.jp/ (佐賀大学全学教育機構)