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農学部附属アグリ創生教育研究センター 松本 雄一先生

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2023.02.09
佐賀大学の教員紹介

農学部・松本雄一講師

1.ご出身はどちらですか。

 

 出身は東京の葛飾区で小学校卒業まで過ごしました。その後、茨城県の取手市に引っ越しして、大学卒業後は茨城県庁で公務員を10年ほどしていました。

 東京でも葛飾区は「こち亀」や映画「男はつらいよ」のような下町の街並みです。初詣も七五三も地元の柴又帝釈天でした。茨城は平野が多く農業が盛んな県なので佐賀とはよく似ています。

 

 

2.この道の先生になろうと思ったキッカケについて。

 

 非農家の家だったので農業そのものは身近ではなかったのですが、植物を作るのは小さい時から好きでした。庭のない家だったのでベランダでジャガイモやイネなど、いろんなものを育てていました。種を取って、その種からまた芽が出てくるから「種を買わなくてもいいじゃん!どんどん増やせておもしろいな」とやっていました。あとメダカや亀とか生き物も好きで、飼育係としてウサギや鶏の世話もしていました。種子をとるというところには何かしら興味があって、それが最終的に品種改良の研究などに繋がっているのかもしれないです。

 私の家系は祖父の代からお神輿になどについている鈴を作る町工場の家で、親戚など周りが皆職人で、自分でも身近な工具で工作を良くしていました。小さいころから手に職をつけた仕事を勧められて育ってきたこともあり、大学はまず工学部に入学しました。群馬県の大学だったのでアパートに引っ越しをし、1階の部屋で庭も使えました。初めての庭のある家だったこともあり、台所で芽がでてしまったジャガイモなどでちょっとした畑を作っていました。今までプランターでの栽培とは違う楽しさを感じたのと、物理や数学が苦手だったこともあり、結果的に「工学部がちょっと合わないかな」と思い、1年生の前期で退学をして、次の年に茨城大学の農学部に入り直しました。

 茨城大学では4年生から修士までイネの遺伝・育種に関する研究をして、その後茨城県庁に就職しました。農業改良普及センターの指導員という仕事で、主にイネや麦・大豆を担当しました。生産者の方への技術や経営の診断、農産物のPR等、現場での様々なことを担う仕事でした。それまで大学での授業・実習以外に農業の知識が無かったので、実際にどのように農作物を作って収入を得るのか、様々な資材や栽培技術、販路やコスト意識、政策や補助金など現場の様子について多くのことを学ぶことができました。

 「農業の現場で役にたちたい」ということを思いながら仕事をしていましたが、3年間勤務した後に人事異動で研究所への配属になりました。イチゴやメロンなど野菜類の品種改良を担当しましたが、県の仕事ですので、学会発表や研究論文を書いて終わりではなく、育成した品種の栽培技術を確立するとか、現場で役に立つものにする必要があります。現場を巡回して、品種の特徴を紹介して、実際の様子を確認する。するとまた新しい問題が見つかって、それをまた研究で解決をするというプロセスで発展させていく仕事でした。

 研究をしていく中で、修士までで習得した知識では、実験の考え方、統計的なデータをもとにきちんとまとめることなどがまだまだ不十分だと思い、大学院の博士課程へ入り、社会人と学生を両立させながら様々な研究スキルを身につけていきました。年休と夏季休暇を合わせた海外短期留学なども経てようやく博士の学位を取得し、研究者として身につけたものを現場に還元していきたい、そう考えるようになった翌年、人事異動で行政職として農業大学校に配属になりました。

 農業大学校は就農や農業関連会社への就職を目指すための学校で、大学のように専門科目や研究の指導ではなく、農業経営のための幅広い技術を指導する仕事です。実習が中心で、資材や労働時間などのコストや出荷した農産物の売上をまとめさせ、どうしたら経営として成り立つか指導していました。このほか、就農のための事務手続きや寮生活の指導、体育祭・文化祭などの行事運営、売店の陳列や売上管理など学校事務に関する様々な仕事を行っていました。

 職場で研究することはできないので、異動の翌々月から出身大学に再び学生(研究生)として入学し、授業料を払いながら土日や夜間を使って研究を続けていました。研究者の立場で農業へ貢献をしていきたいという思いが強くなり、人事異動を待っていれば定年までのどこかでまた研究職に就けるかもしれませんでしたが、10年後、20年後のいつになるのか、そもそも異動できるか確実でないことから他への転職も考えるようになりました。

 その後、佐賀大学で近い分野の公募があり、移籍することになりました。

 

 

3.研究についてお聞かせ下さい(研究の魅力・抱負)。            

 

 佐賀大学での研究活動は2013年の12月からで、最初に始めたのが元々やっていたイチゴとメロンの栽培や品種改良の研究でした。ただそれだと佐賀に来た意味があまりないので、公務員時代から取り組んできた「現場の課題解決」という視点で九州に貢献できるようなテーマがないかなと1年ほど考えながらやっていました。2014年度の終わりに開催された農学部60周年講演の中でキクイモを広めていきたいという要望が地元企業からあり、当時の学部長の渡邉先生からやってみないかというようなお話があったんです。それがキクイモ研究を始めたきっかけです。

 キクイモ自体は全然知らなかったのですが、キク科のイモ類にヤーコンっていう似た植物がありまして、出身大学の茨城大学農学部はこのヤーコンを南米から日本に普及をさせる取り組みをしていて、産地化や町おこしの様子を身近で見ていましたので、キクイモもヤーコンと似たようなものだろうから、どうにかなるかなって。

 そうして2015年には、佐賀や福岡の食品メーカー、自治体、生産組織の方を中心に産学官連携のグループを作って、農林水産省の予算が採択されて本格的にキクイモ研究をしていくことになりました。ただ、農林水産省の事業が研究費ではなく振興をするためのものなので、研究だけでなくキクイモを広めるということも含めた取り組みになりました。

 まず、栽培に関して、どの肥料を使うか、病害をどう解決するか、健康に良い成分がどうやったら増えるかなどに取り組みました。さらに、消費者や企業でどのように使われるか、販売や取引ができるかといったマーケティングを行ったり、芋の特性は何か、状態は生がいいのか、乾燥した状態がいいのか、生産者の方と検討を重ね、加工や調理法の検討なども行いました。

 産地に入っていく際には農業改普及指導員としての経験も役立ちました。農協、市役所、県庁へ行ったり、消費者向けのPRイベントを開催したり、東京ビッグサイトでの農林水産・食品産業分野の技術交流展示会「アグリビジネス創出フェア」に参加して、いろんな企業でキクイモを使ってもらうよう紹介していきました。

 地域連携の取り組みの一環としては、佐賀大学のブランド芋としてサンフラワーポテト(一般的キクイモよりイヌリンが1.2倍ほど多く含まれている。イヌリンは血糖値上昇を抑える効果を持つ機能性成分。)を選抜※・登録し、付加価値をつけて販売してもらう事で地元と連携を深めていってます。

 ※選抜:キクイモは全国で栽培、生産されていたため、中にはイヌリンや収量が少ないものも   

 存在する。佐賀大学では、より効果の見込める品種を選ぶため全国26系統を比較し、イヌリン含有量  

 やイモの形、収量などが優れるワンフラワーポテトを選抜。

 キクイモは腸内環境を整える効果があります。味噌汁一杯の数切れ食べただけでもお腹の状態が変わるのがすごいです。また、医学部とも共同で研究を行い、キクイモを食事の前に一回食べただけでも血糖値の上昇が抑えられることを確認できました。

 冬の間、佐賀大学の農産物販売コーナー(美術館、農学部棟)では、農学部附属アグリ創生教育研究センター※の本部で収穫されたキクイモが売られています。活用法としては、味がごぼうに似ているので、豚汁や天ぷら、きんぴらなどのごぼう料理が一番しっくりきます。

 イヌリンの持つ効果を期待して1年中食べたいとなってくると、乾燥物やパウダーの利用が手軽なのですが、どのように使ったらよいかはあまり広まっていません。現在は、これらの使用法についても研究を行い、お茶やパンなどの加工用途として、成分含量だけでなく味や食感なども分析機器を使って測定をしています。研究成果を基にした商品やレシピの開発も進んでおり、共同開発商品としての販売やレシピ本の出版、デパート等での料理教室を開催しながら消費者にも成果を還元しています。

 ※佐賀大学農学部附属アグリ創生教育研究センター

 佐賀市久保泉町の本部と唐津市の唐津キャンパス、本庄キャンパスの3施設で構成。

 久保泉の本部は生物生産科学部門として農業実習や動植物の研究を実施。唐津キャンパスは健康機能

 開発部門として機能性食品や化粧品の開発に向けた研究に取組む。

 

 

4.学生に教えている講義内容について。

 

 学部では園芸学、大学院では園芸利用学などで主に野菜の栄養機能や貯蔵・加工法などの内容が中心です。貯蔵中の水分や成分の変化、加熱等による影響や色素などに含まれる健康・美容成分といったような話をしていますが、学問としてだけでなく実際に消費者サイドで見たときに、冷蔵庫での保存方法とか、栄養素や味がどういう風に変わっていくかということも関連づけて教えています。というのも、県職員時代から色々なところで消費者の向けの話をしていますが、野菜の調理や保存の方法などについては意外に知られていないと感じていました。卒業生は全員が専門家にならなくても、消費者にはなります。専門の難しい話は忘れてしまいがちですが、身近なことはそれなりに記憶に残るので、将来「農学部を出て良かった」と思えるような生活に役立つ知識も身につけてもらえればと思っています。

 大学院の園芸利用学では農産物の加工とか利用の部分での話を実際のキクイモでの取り組み事例も交えて話をしています。加工食品や化粧品として販売や表示などを行う際には法律的なものも関わってくるので、院卒の専門家としての就職や生活上役に立つ知識として、機能性表示食品はどのような内容で届け出が行われているのか、化粧品における表示、販売での工夫など、企業との共同開発の経験に基づく紹介もしています。

 

 

5.学生に向けて一言いただけますか。

 

 いろんな分野に興味を持って、実際に体験して欲しいです。社会では自分の専攻してきた分野だけではなく、他のことも結構関わってくると思うんです。

 私の今行っている研究は、栽培や育種、植物病害、食品機能などで農学に関する分野を幅広く横断しています。県庁での人事異動や担当替えも含めた様々な経験や、現場を見てきたから感じるところなのですが、社会で就職して商品の開発とか企画とかやっていくとなると、多分、幅広い視点が必要になってくるかなと思います。商品を考えるにしても成分だけでなく、原料生産や産地、加工、コスト、販売まで様々な考えが求められるかなと。なので例えば、研究室でもいろんなことに興味を持って、失敗したり研究的に意味のないことになってもチャレンジをしていくと、経験にもなるし、知識もついてきます。それが就職してから役に立ってくると思います。学生の時には気軽に失敗できるけど、就職後は堅実になりがちだと思うので。完璧に身につけてなくても、何かやったなっていうことが「引き出し」としてどこかにあると、改めて必要になったときにすんなり吸収できます。

 

 

6.佐賀に住んで感じたこと(佐賀に住んでよかったこと・佐賀の魅力等)。

 

 山とか、海だったり、温泉だったり、すごく近いところにいろんなものがある。ちょっと行けばもう三瀬があって、有明海は独特の景色や生き物がいて、唐津の海も1時間あれば行けますし、波も穏やかで透明できれい。温泉も、嬉野、武雄、佐賀市内でも古湯とかいろいろある。高速使うと1時間ちょっとあればもういろんな場所に行けるっていうのがすごく佐賀のいいところ。それこそ関東だったらなかなか箱根に行くとか日光に行くとか草津に行くとか1時間じゃいけないので。

 あと福岡に近いっていうのもポイントで、福岡には子ども向けにもアンパンマンミュージアムやいろんな施設があります。この前は福岡のキッザニアに行ってきたんですけれども、関東だと人口のわりに都内近郊に1カ所しかないので、混雑などからなかなか行けません。福岡に行けば気軽に色々な経験ができ、イベントも多くて便利です。

 

 

7.休日はどのように過ごされていますか。

 

 今の時期だとサッカーのJリーグ観戦です。ずっと応援してるのは、水戸ホーリーホックです。今はJ2の真ん中くらい。昔はサガン鳥栖と一緒に最下位争いしてたんですけどね。テレビでJリーグを見たり、子供とどこか出かけたりですね。長崎や熊本など九州で水戸の試合があるときなんかは、直接に応援に行くんですよ。

 

 

8.今後の目標をお聞かせ下さい。

 

 今は大学の立場で福岡に行ったり、佐賀に行ったり、熊本とか鹿児島とかいろいろ回っていますが、もし自分が県の普及指導員や研究員の立場だったら、県を越えての仕事はなかなか難しいところです。ですので、県をまたぐ現場の課題、あるいは県がちょっと手を出しにくいマイナーな作物の課題を解決していきたいですね。

 特に地域特産野菜などは研究している人が少ないので、キクイモ以外の作物でも要望があれば、栽培や加工・成分など社会に繋がる研究をできればと思っています。

 生産者や企業の方を通じていろんな繋がりができてきます。レストランでメニューとして出すことになったり、料理教室を開催することになったり、いろんなステージに出ることになったりとか、人との繋がりを楽しんで、そのままどんどん受け入れていっています。それは大学の仕事なのか、研究活動なのかって厳密に考えると何とも言えないものもあるんですけれども、結果的にキクイモや研究成果を広めることの一環にもなり、学生にとっても社会経験の機会になっています。

 研究をして論文を書くだけはなく、一般の方や生産者へもっと噛み砕いて、いろんな商品にするとか、使い方を紹介していくという形などで、教育・研究と地域貢献をできればと思っています。特に、農業改良普及指導員の国家資格と実務経験を持つ大学教員は全国的にもほとんどいないので、この経歴を活かした実用的な取り組みをできればと思います。

 

 

9.県下の企業・自治体・学校の中で何かをやるとしたらどんなことをやりたいですか。   

 

 新しい植物素材を使って、企業さん、県・市町などのレベルでの町おこしや特産品となるような商品開発をしていきたいです。一から開発する以外にも、生産者や企業、農業高校などの取り組みに研究室も一緒に加えていただいて、機能性成分等の新しい特徴を追加したり、売りになる味や食感を数値化したりすることもできると思います。ですので、地域の特産品や珍しい食材で商品を作りたい方は気軽にお声がけを頂ければと思います。

 学生もいろいろいろんな商品や企業に関わることでアイディアを出してくれますので、学生の意見も取り入れて既存のものを改良していくということもできるのかなと思います。

よくわかっていない作物をどうやって活かすかというところでは、キクイモでは佐賀大学美術館のカフェや一般の飲食店のメニューを開発したり、試作品の開発の取り組みを行ったり、大学近くのスーパーゆめマートでの試食をやったり、博多などで料理教室を開催したり、その他、県や市のイベントに出展したりしていますので、いろいろ経験があります。

 研究室の所在する唐津キャンパスでは、化粧品の素材や薬用植物にも注目しています。最近ではキクイモの持つ美容効果についても研究をしていて、色々と明らかになってきています。食品だけでなく、化粧品用途でも要望があればいろいろ受け入れたいなと考えています。

 

監修 松本雄一「天然のインスリンたっぷりミラクル野菜 糖尿病・肥満は「きくいも」で改善!」㈱芸文社, 2019年, p38