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HOME >  佐賀大学の教員紹介 > 『佐賀大学の教員紹介』海洋エネルギー研究センター 安永健先生

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2020.09.15
佐賀大学の教員紹介

海洋エネルギー研究センター  安永 健  助教

 

1.ご出身は?

 

 佐賀県のみやき町になります。合併する前は北茂安という町名でした。

 

 

2.この道の先生になろうと思ったキッカケについて

 

 高校の頃まで野球をしていて、「人生は野球と一緒に」と思ってましたが、怪我で野球が出来なくなって、将来の道に迷っていたところに、高校の物理の先生から「海洋温度差発電」の研究を紹介してもらいました。その後すぐにオープンキャンパスで池上先生(※現センター長)にお会いして、そこから「海洋温度差発電」との縁が出来ました。

 大学は佐賀を出てみたくて、京都府内にある大学の機械系の学科へ進学しました。機械系だと将来「海洋温度差発電」の研究に携われるかもしれないという思いで選びました。大学の4年の時、改めて池上先生を訪問して、やっぱり「海洋温度差発電」に興味を惹かれると思い、故郷に戻って佐賀大の大学院へ行きました。この研究にずっと携わり学位取得に至りました。ところが、研究は発電システムの基本設計に近い内容なのに、実際の設計を知らない。現実の「ものを作りの考え方」と合ってるのかすごく気になってたんです。たまたま、幼馴染の友人から「海水淡水化事業」を一緒にやらないかという話を受けて、企業に就職しました。実際に大きな装置の設計・開発をして、任せてもらえる範囲も広く、海外出張などすごく楽しかったです。ただ、東日本大震災を機に、自分しかやれないことをきちんとやる必要があるのでは、と改めて思いました。会社の中では私の代わりになる人は100人といるんですね。自分が何を残せたかと振り返った時に「これで良かった」と後悔しないようにと考えました。その時期に現在の海洋エネルギー研究センター(以下、「海エネ」)で教員枠が出ていたので、戻ってきました。海洋温度差発電があって自分が頑張れたというところもあるので、今度は自分が返すべき番かなと考えました。

 

 

3.研究の魅力についてお聞かせください。

 

 研究の魅力は、やっぱり海を対象にすることです。地球の表面の7割を占めてる一番大きな存在ですね。その温度差を使って発電ができる。非常に身近なところから電気ができて、水もできて、いろんな深層水を使った応用もできる。今、久米島では100kWの海洋温度差発電の実証と、海洋深層水を使った車エビなどの養殖、冷熱を利用した農業や、飲料水、化粧水など商品が作られています。一度発電に使った深層水を他の事業に資源として活用する取組が行われているんです。そんな話、聞いていてワクワクする内容ですよね。研究としてワクワクするっていうところがやっぱり一番の魅力になりますね。生活の中に必要で、みんなが求めているものを提供できる。そんな目に見える成果も魅力に感じるところだと思います。

 国際的連携も魅力で、私たち海洋温度差発電の場合、ハワイ、マレーシア、オランダ、フランス、メキシコなど、などネットワークが世界各地に広がっています。今はオンライン会議が多いので、ハワイの人達がいつも真夜中です(笑)。海エネにいると学生も国際学会への海外出張だったり、学内でも英語を話す機会が多く、良い刺激になると思います。

 

 

4.学生に教えている授業内容について

 

 私は今は学生には授業を持っていないんです。一緒に研究をやってる池上先生の大学院の学生、卒論生の指導であったり、インターンシップで来られる海外の学生に色々指導しているのが主な教育になりますね。それ以外には民間や学校などの学外から見学に来られた方にこの施設を紹介する機会が多いです。

 

 

5.学生に向けて一言いただけますか?

 

 私がすごく気にしているのは、コロナ禍の影響で正しい情報になかなかアクセスできない状況です。大学にいると論文であったり、図書館での本であったり、色々すごく洗練された情報にたどりつけますが、それがどうしてもインターネットが中心になってしまいます。情報が溢れて、勝手に向かってくる時代だからこそ、自ら足を運んで、価値のある洗練された情報に触れて欲しいですね。

 学生とは、対面で話す機会も減りました。今だからこそコミュニケーションにすごく気を使ってほしいとも思っています。自分が伝えたい内容の発信方法や、相手に伝えたい時にどういう形で情報を提供していくか、情報による相手の心の動きに気を遣うコミュニケーションをすごく大切にして欲しいと思っています。卒業後は一人で出来る仕事は限られていますが、今はテレワークが増えてきています。今後、情報を相手に正確に伝えるコミュニケーションのスキルは非常に大切だと考えています。

 それと、今の時期だからこそ、本を読んで世界を広げ、熱中できるものに出会ってほしいと思っています。できればそれが研究であって欲しいですけど(笑)。興味を持って、自主的に行動してほしいですね。一緒に研究をしている学生をみて感じることは、授業を受けて情報をもらうことに慣れていて、自分から問題を設定し、そこに向けて行動するというスタイルがすごく少ないです。海外から来るインターンシップの学生はすごくその点に長けています。今の時代もしくはこれから先の時代だからこそ、自ら課題設定ができて、その解に向けて実行してまとめていく練習をして欲しいですね。

 

 

6.佐賀のおすすめのスポットを教えてください。

 

 佐賀県は陶磁器がすごく有名です。伊万里であったり、有田であったり、唐津であったり。私の地元にも白石焼っていうのがあって、白石焼とこの伊万里の大川内焼は鍋島家にゆかりがある窯です。そういう窯元巡りがオススメですね。その窯の技術が最終的な幕末の反射炉の技術にも繋がったりして、反射炉の技術からできた蒸気船の技術というのが、実は今の温度差利用の一番のルーツなんですね。そういうのを考えながら、窯元巡りするのがすごく好きですね。ただ窯元に足を運んだ時は、どうやって温度制御してるのかなぁとか見てしまいます(笑)。

 例えば、蒸気船の仕組みは全く発電所とかと同じ原理です。幕末に実際の蒸気機関車の小型模型を佐賀藩が複製していますが、あれはアルコールで動かしてるんですよ。アルコールは低沸点媒体。昨年の前の幕末維新博で改めて気付いて、温度差発電と蒸気船がつながってくる。そういう佐賀県のつながりって面白いですね。

 

 

7.休日はどのように過ごされていますか?

 

 私は子どもが四人います。今の状況では、子どもたちと公園に行くか図書館に行くことが多いですね。子ども達も私も図書館が大好きなので、色んな場所の図書館に行ってゆっくりしています。子どもたちは歴史も好きなので、博物館等も一緒に行っています。

 

 

8.今後の目標をお聞かせください。

 

 今後の目標は大きく3つ考えてるところがあります。一つは「社会実装」。この研究を世界に送り出すところですね。実際に事業化するサポートです。中でも「標準化」に力を入れたいと思っています。海洋温度差発電の設計、運転では、今までの発電の考え方とちょっと違うところが多いんですね。その部分というのは、専門家の中でも分かりにくいところがあるので、それを「標準化」して、それに沿ってやっていけば失敗しない方向に持ってく。「標準化」するというのは、さらに装置自体のコストが下がっていくこともになります。

 2つ目は「技術的な発展の部分」。サイエンスの中の応用で、エンジニアリングに近いところです。具体的には熱交換器の開発です。最近、機械学習を使ったような最適化の技術が非常に発達してきていますので、その開発スピードに負けないように、機械学習の基礎的なところを学生と一緒に勉強しながら、開発のスピードを上げていきたいと考えています。

 3つ目は「なぜそういう現象が起こるか」というサイエンスに近いところですね。まだ今は十分に手をつけれてないんですが、「蒸発」であったり、「凝縮」という「液体が気体に変わる」、「気体が液体に変わる」という熱交換器の中で起こっている現象の解明に貢献していきたいと考えてます。

 

 

9.最後に、県下の企業・自治体・学校の中で何かやるとしたらどんなことをやりたいですか?企業や社会人の方へ一言いただけますか?

 

 今は佐賀県と再生可能エネルギー等イノベーション共創プラットフォーム(CIREn:セイレン)という組織の海洋温度差発電関連技術分科会で熱エネルギーのマネージメントの高効率化や適応方法を考えています。工場の排熱などをどういう風にマネージメントすると低コストで持続可能な形態になるか、という側面から、いろんな事業に貢献したと考えています。久米島の海洋深層水を多段利用するモデルの様に、低密度なエネルギーである熱を活用するのが理想です。

 企業では、工場や製品などで今悩んでいる問題は、新しい運用方法への活路が有るかもしれない。大学のリソースも活かして、民間での経験を活かした新しい取組を考えていきたいと思っています。

 また、伊万里の設備は、現在はコロナ禍の影響で見学受入を中断していますが、普段は誰でも見学できます。是非、お時間がある時に足を運んで頂いて、佐賀を中心に発展している技術を知って頂きたいですね。