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HOME >  佐賀大学の教員紹介 > 『佐賀大学の教員紹介』 芸術地域デザイン学部 石井 美恵 先生

佐賀大学の教員紹介

2021.06.08
佐賀大学の教員紹介

芸術地域デザイン学部 石井 美恵 准教授

 

 

1 ご出身はどちらですか?

 

 神奈川県の相模原市です。そして、2歳から8歳までイギリスに住んでました。子供のころ自分はイギリス人だと思ってました。カズオ イシグロとかが長崎の思い出の話や自分の体験とかを話されていると思うんですけど、それがすごくよくわかります。2歳くらいで故郷を離れた当時はなかなか帰ってこられなかったんですけど、日本の記憶がずっとあるんですよね。日本の夕日の感じとか残ってるんです。突然、違う文化の中に入れられるので鮮明に覚えているんです。日本語は日本に帰ってきてから学びました。自分の中では日本語は獲得した言語です。なので、根無し草のような感覚が自分の中にはあるように思います。

 

 

2 この道の先生になろうと思ったキッカケについて

 

 大学2年生のときにフランスに1か月ほど語学研修に行って、ある時クラスメイトと自転車で古城巡りをして、アンジェという小さな町に行きました。その日は暑かったんですが、アンジェ城の中に入ったらヒンヤリしていて、そこに巨大なアンジェの黙示録のタペストリーがあったんです。それを見たときにとっても心が揺さぶられて、それからアンジェの黙示録のタペストリー(※)をテーマに卒業論文を書くことにしました。それは、聖書の最後の部分、この世が終わる時に悔い改めた人が救われるという場面を描いた14世紀の巨大なタペストリーで、縦が5メートル横が20メートル。これが12点で1組なんです。そこから、いろんなタペストリーを見て回りました。大学卒業を目前にして、イギリスに留学しようと思って、ロンドン大学に織物の保存修復コースがあることを偶然知って、自分の進学先として心が動いたので、面接に行きました。ドアを開けて修復保存の現場を見せてもらった瞬間に「あっこれ一生やりたいな」って思ったんです。無事にロンドン大学に進学してコースを受講して、思えば22歳から「織物の保存修復」をずっとやってます。そして、30代後半から人を育てる方向に自分の力を注いでいこうと思ったんですが、日本で織物の保存修復を教育できるところってなかったんです。2016年に佐賀大学で新学部を作る公募があって、条件が「美術史」と「博物館資料保存」という珍しい組み合わせだったので応募して採用して頂いたんです。今は本当に恵まれていて「美術史」も教えられるし、「資料保存」も教えられて、次の世代を育てられるので、本当に幸せです(笑)。

 

 ※色とりどりの糸で風景・人物像等を織り出したつづれ織り。また、その壁掛け。

 

 

3 研究についてお聞かせください。(研究の魅力・抱負)

 

 今研究していることは、第一は日本政府が2016年から行っている「大エジプト博物館合同保存修復プロジェクト」で行っているツタンカーメンの服飾品の保存研究です。これはエジプト人と日本人の共同チームで行っています。ものすごくインパクトがありますのでチームで慎重に保存修復の方法を決めながらやってきました。今は、その保存修復の現場で得た情報を整理して学術的に公表していかなければいけないので、それをコツコツやっています。
 第二は教育です。今年は日本や海外で保存修復の技術を記録して、どうやってオンラインで伝えるかに取り組んでいるところです。もともと、文化遺産国際協力コンソーシアムでアルメニアを調査して、アルメニア歴史博物館には染織の保存修復できる方が一人しかいなくて、染織の人材を育成してもらいたいとの意向を受けて、現在はアルメニア正教会付属博物の人たちを中心にして人材育成を行っています。ようやく10年もやっているとお互いに仲良くなってきて、本当のニーズも分かってきました。去年から文化庁も「もっと支援しましょう」ということで動いてくださったので、手弁当的なものから少し事業費も大きくなって活動できるようになりました。そこで、染織の保存修復の技術テキストを日本語と英語とアルメニア語で作ることで、いろんな国の人に役に立ててもらえるようにしています。実際にこのテキストを使って、日本とアルメニアでオンライン講座を実施して、視聴覚教材ビデオも作っています。このビデオは日本語で説明して、アルメニア語で字幕が入っています。保存修復技術のハウツービデオでもあるんですが、技術記録でもあると思っています。ある一時代の保存修復の方法論です。
 こういった映像ビデオを作る経験をしたので、今は佐賀大学VISION2030で無形文化財としての鹿島錦の記録保存をやっていて、地域の再興に質するプロジェクトとして「鹿島アートプロジェクト」の一環で、鹿島錦の伝承者の最高齢104歳の樋口ヨシノ先生の技術や言葉を記録していってます。

 

 

4学生に教えている授業内容について

 

 学芸員課程の博物館資料論と博物館資料保存論を教えています。博物館の学芸員になりたい人向けの授業ですね。あとは美術史を教えています。それと教養教育科目として「佐賀の染織」という授業もやっています。重要無形文化財「佐賀錦」保持者に認定されていた 古賀フミさんが亡くなった際に一時避難場所として資料が本学に送られてきました。その資料を学生達と整理して、展覧会をやったり、授業でエッセーを書いたり、写真を撮って本も作りました。経済学部や理工学部、農学部の学生も受講しています。「佐賀錦知らない。お菓子だと思った」というところから「知ってる。知ってる。見たことある」「この人の話してたビデオから佐賀錦を教わった」っていう若者たちを増やしていこうと思っています。

 

 

5.学生に向けて一言いただけますか?

 

 好きを見つけてください。私のゼミでは、どの学生にも何でもいいから自分の好きを探すっていうのを研究テーマにしてます。好きだと勝手にエンジンがかかってどんどん自分から進んで体験するので、好きなことが1つでもあれば他のことをやらされてても、きっとそれだけはやるでしょう。

 

 

6.佐賀に住んで感じたことはありますか?(魅力など)

 

 佐賀に住んで良かったことってありすぎて(笑)1番の魅力は佐賀の気候風土ですかね。東京から来て解放されました。空が広くて、海風がちょっと感じられて、人がゆったりしていて、気候が穏やかで、食べ物が美味しくて、とても暮らしやすいです。たぶん寿命が伸びたと思います。こういう人生の選択肢があったんだって思いました。そういう感じを、もっと都会の人にも知ってもらいたいです。思い切って渦の中から出てみる。オンラインで世界とつながる仕事はいくらでもできるし、地方の面白いものを発掘してどんどん発信することもできますよね。

 

 

7.休日はどのように過ごされていますか?

 

 休日はプチ旅行をします。佐賀には5年住んでるんですけど、気分はずっと観光客です(笑)車を運転できないから、ローカル線に乗って、小城に行ってみたり。あと、有田が好きで行きますね。佐賀市内も広いからウロウロ歩いてます。そうすると歴史が分かったり、長崎街道がココと繋がってたんだって分かったりします。観光案内所に行って、町歩きマップをもらって、巡って、満喫するっていうことをもあります。

 

 

8.今後の目標をお聞かせください。

 

 今後の目標は、やっぱり学生と楽しく勉強することです。豊かな人生を歩めるような大人に育ってもらうことが一番大事で、大学時代になにか好きなものがみつかれば、尚良くて、それが資料保存に繋がれば尚更良いですね。無理にとは言いません(笑)

 

 

9.県下の企業・自治体・学校の中で何かやるとしたらどんなことをやりたいですか?企業や社会人の方へ一言いただけますか?

 

  若い人たちに佐賀の染織文化などの自分が知っていることを伝えたいですね。小さいころに見聞きしたものって意外に心に残るので、できれば小学生くらいから伝えていきたいですね。

 

関連情報

さがシーズの石井先生のインタビュー動画はこちらになります。