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『佐賀大学の教員紹介』理工学部 平瀬有人先生

2020.04.28
佐賀大学の教員紹介

 

理工学部 理工学科 平瀬有人 准教授

 

 

1.ご出身はどちらですか?

 

 東京の世田谷です。

 

 

2.この道の先生になろうと思ったキッカケについて

 

 父親が建築設計事務所を主宰していたのでその影響が大きいですね。かつては大学の先生が大学の中で設計をしているスタイルが多く見られました。先生が取り組む実施設計やコンペティション応募の設計などを大学院生が手伝ったりすることで、それが今で言うインターンシップのように教育にもなっていたんですね。大学紛争の際に産学協同が問題となり減ってきたのですが、出身校の早稲田大学では伝統的に大学研究室で設計活動をする体制が一般的でした。僕が師事した古谷誠章先生の研究室にいたときの「研究しながら設計する」スタイルは、世に問うべき新しい建築の創造に繋がるのではないかと思って、2008年から佐賀大学に来て研究しながら設計をやるという道を選びました。

 

 

3.研究についてお聞かせください。(研究の魅力・抱負)

 

 建築設計はクライアントの要望があるので、プロジェクトによって機能もそれぞれ全然違います。クライアントの要望に機能やコストで応えることができればそれで成立するものでもあるのですが、「西洋建築の歴史に対してどういう位置づけの設計なのか?」、「ルネサンスから続く歴史の中で自分の設計しているものはなんなのか?」というような研究テーマを持ち続けたほうが良いと思っています。現実にはなかなか難しいことが多いですが(笑)。
 最近は「マルチ・フレーミング」というテーマで研究しています。日本語で言うと「フレーム」とは「枠」という意味なので、「複数の枠」ということになります。オランダの絵画には窓や建具などのフレームがたくさん描かれています。イタリアの絵画に比べるとオランダの絵画というのはいろんなところに視線がいくのです。フェルメールとかそうですよね。イタリアの絵画は単一焦点で象徴的に物語を描いているのですが、オランダ絵画にはさまざまなものが絵の中にあるのです。あっちに中庭があったり、むこうに部屋があったりとか、いろんなものに視線がいきます。このフレームがたくさんあって並んだり重なったりしていることを、フレームの「並置」・「重層」と定義しています。フレームを横に並べるのが「並置」、「重層」というのは奥にどんどんフレームが続くものを言います。
 興味深いマルチ・フレーミングの例ではイタリアの建築家カルロ・スカルパが、ヴェネツィアの古いお城を改修してカステルヴェッキオ美術館を設計しています。お城の回廊にあるアーチ状のフレームに対してスカルパは内側に矩形の窓を重層的にデザインしたり、窓に並置するように素材の異なった四角いフレームのある展示室を増築しているんですね。古いものに対して新しいものを挿入したデザインで、彫刻の配置の仕方も含めていろいろなところに視線がいくような展示の仕方をデザインしています。「いろいろな世界を同時にみる」というテーマは小津安二郎の映画にも見られ、絵画・映画などさまざまな視覚文化論も参照しながら研究をしています。

 

 

4.学生に教えている授業内容について

 

 最初は基本的な図面の描きかたや模型のつくりかたからはじまって、住宅・集合住宅・ギャラリー・小学校・図書館などの設計の演習を教えています。研究室では大学院生や4年生の学生と一緒に建築設計のプロポーザル(※1)に応募することがあります。2〜3年生の課題や卒業制作は架空ですが、実際に公募されている建築設計プロポーザルに応募するのは、実際に建つ建物なので、緊張感を持って学生指導するわけです。するとその熱量を感じるのか学生の設計スタディスキルや表現能力が伸びるんですよね。

 

(※1)「プロポーザル」とは、企画・提案のこと。プロポーザル方式は、主に業務の委託先や建築物の設計者を選定する際に、複数の者に目的物に対する企画を提案してもらい、その中から優れた提案を行った者を選定すること。

 

 

5.学生に向けて一言いただけますか?

 

 建築はみんなが生活している場所に普通にある存在。普段の生活では、景観とか風景を無意識に感じて生活しているけれど、生活の「場」であり、非常に重要な存在です。建築の知識があると日々の生活が更に豊かなものになると思います。また、建築の設計は手帳の中のちょっとしたスケッチからはじまり、それが最終的には実物の形になる責任感のありながら楽しい仕事です。その「楽しさ」も伝えたいです。
 佐賀に来る前はスイスのバーゼルという人口17万人ほどの小さな町に住んでいたんですけど、歴史ある建築物が多くあり世界的な情報発信もできる町だったんですね。佐賀も小さな町ではあるのですが、佐賀から世界につながるものもある。学生にはぜひ世界的な視点で学んでほしいと思います。

 

 

6.佐賀のおすすめのスポットを教えてください。

 

 佐賀県立博物館。設計は高橋靗一先生(※2)と内田祥哉(※3)先生。内田先生は新国立競技場を設計した隈研吾さんの先生です。外に4本の手が伸びたような建築図式的なグラフのような四分割の平面をしています。手すりは太いステンレスのワイヤーでブヨンブヨンと揺れる独特のデザインです。
 佐賀県立図書館もお二人の設計です。グリッド状の柱の連続する建築で、派手な造形ではないのですが、建築構法の一人者でもある内田先生はモジュールを用いて寸法を決定していて、ものすごく合理的につくられてるのです。
 市村記念体育館は設計は坂倉準三(※4)さん。ジグザグ状の折板の壁と曲面の吊り屋根が特徴的な建築です。坂倉さんは近代建築の巨匠と言われているル・コルビュジエ(※5)の弟子なんです。日本でも著名なこれらの近代建築が残っているのは魅力ですね。

 

(※2)日本の建築家。1924年中華民国青島うまれ。東京大学卒。逓信省経て第一工房設立。大阪芸術大学名誉教授。主要作品:群馬県立館林美術館。2016年没享年91歳 参考「建築設計研究所」(https://freedomlab.jp/news/view/201605011


(※3)日本の建築家。1925年東京生まれ。東京帝国大学卒。挺進省経て内田翔也建築研究室主宰。東京大学名誉教授。主要作品:佐賀県立九州当時文化会館、武蔵大学。
参考「市ヶ谷出版社」(http://www.ichigayashuppan.co.jp/author/a105424.html


(※4)日本の建築家。1901年岐阜県生まれ。東京帝国大学文学部卒。 1929年パリ大学で建築を学び、その後ル・コルビュジェに師事。坂倉準三建築研究所主宰。主な作品:パリ万博日本館。1969年没 享年69歳。
参考 参考「坂倉建築研究所」(http://www.sakakura.co.jp/info/company/junzo-sakakura/

 

(※5)スイスの建築家。1887年生まれ。20世紀を代表する建築家。主な作品:国立西洋美術館 1967年没 享年77歳 参考 「国立西洋美術館ホームページ」(https://www.nmwa.go.jp//jp/about/building.html#LeCorbusier

 

 

7.佐賀の魅力はどういったところでしょうか?

 

 佐賀の魅力は、有明海沿岸道路を南西に行くと蓮根畑や玉ねぎ畑が広がっていて、あのフラットな風景は美しいですね。散居のように耕地の中に散らばって点在する集落や空の広さとか、魅力的な風景がありますね。

 

 

8.今後の目標をお聞かせください。

 

 良い建築を造る。特に美術館や図書館のように人々の集まる場を設計したいですね。

 

 

9.県下の企業・自治体・学校の中で何かやるとしたらどんなことをやりたいですか?企業や社会人の方へ一言いただけますか?

 

 これまで県内の自治体と一緒に小学校のエントランスのタイルパターンの設計などを行った実績があります。民間企業では築約100年の古い建物の改修デザインに携わりました(※6)。
 今後は建材・素材メーカーと研究開発できたらいいなと思ってます。デザインを考えたり、新しい価値を見出したりすることを学生と一緒に考えていきたいですね。

 

(※6)「富久千代酒造 酒蔵改修ギャラリー」 2016年度グッドデザイン賞受賞