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芸術地域デザイン学部 藤井 康隆 先生

佐賀大学の教員紹介

2022.11.29
佐賀大学の教員紹介

芸術地域デザイン学部
藤井康隆 准教授
(研究室の書庫前にて)

1:ご出身はどちらですか?

 

 生まれたときは広島市在住で、子供のときから大学進学まで、一番長く暮らしたのは大阪府吹田市です。

 

 

2:この道の先生になろうと思ったキッカケについて。

 

 小さい頃から本を読むのが好きで、何か知りたいと思うようなことは何でも本を読んだり調べてみるのが好きでした。文学作品や小説などいろんな本をむちゃくちゃ読み、星にも、化石にも、漢字にも、木や花など植物にも、歴史にも興味がありました。僕が専門とする考古学(文字資料に基づかずに、主に遺跡から出てきた物質資料だけで歴史を紐解き復元する)の業界では、学芸員や大学教員の多くが子供の頃から歴史好き、遺跡や博物館好きだったそうなんですけど、僕は高校生ぐらいになるまで博物館にも行ったことがありませんでした。ただいろんなことを知りたくて、本を読むのが好きっていうのが研究者になろうとしたキッカケなのかもしれないですね。

 中学校の頃、社会科の先生が授業中の雑談で、「戦国時代とか江戸時代とかはたくさん記録も残っていて研究者も多いから、もういろんなことがだいぶわかってきている。だけど、古代はわからないことも多くて資料も少ないから、もし歴史を勉強するなら古代を研究した方がぜったい面白い」と言うのを聞いて、図書館とか本屋さんで古代史や考古学関係の本を読んでみたら面白かったので、大学に入ったら考古学を勉強しようと思いました。何か他の人がやらないようなことや、他の人が知らないようなことを調べたりするのが面白いという感覚はもともとぼんやりと自分の中にありましたが、たまたま社会科の先生からはっきりそういう話を聞いたのが研究の世界に進むキッカケだったと思います。

 大学の先生になろうとしたことに関して言うと、もともと学生時代から、僕の中では文化財行政の現場よりは、研究をしたりその研究成果を使って人に何かを話したりしてる方が自分の性に合ってるので、大学や研究機関に就職したいと思っていました。そのため、大学院修士課程を修了したら博士課程に進んで中国に留学することを考えていました。ところが、ちょうど当時は就職氷河期の中でも最悪の時期だったんですが、たまたま将来の練習程度の軽い気持ちで受験した名古屋市の学芸員の採用試験になぜか受かってしまい、学芸員になりました。それでもいずれは大学や研究機関で仕事をしたいという想いを抱いていたので、大学や研究機関に所属してる自分と同じ世代の人たちと勝負できるような研究業績がないといけないという思いで学芸員の仕事と研究に取り組んでいました。佐賀大学に来ることができたのは、日本では学芸員はアカデミアの研究者という位置づけではないこともあり、15年以上大学・研究機関への応募を続けてようやくのことでした。

 

 

3:研究についてお聞かせ下さい(研究の魅力、抱負)。

 

 僕が研究しているのは中国の六朝考古学、あるいは魏晋南北朝考古学と呼ばれる分野で、中国では考古学の中の一つの分野としてすでに確立されていて、結構いろんな発見もあり、研究成果が蓄積されています。でも、日本の中国考古学界ではとてもマイナーな分野なんです。日本では殷や周などの古代王朝や、あるいは兵馬俑などで著名で日本にも影響を及ぼした秦・漢王朝などの時代の研究がメジャーです。僕が研究している六朝、魏晋南北朝の考古学は、日本の考古学界ではおそらく僕を含めて数人しか研究者がいません。

 今後の目標は、やっぱり自分が先頭に立って、日本で六朝考古学、魏晋南北朝考古学という分野を確立し、日本でこの分野の研究者がもっと増えてきて、もっと体系的に幅広い研究がされるような、その下地を作っていきたいです。

 僕がこの時代に惹かれたのには二つ理由があります。一つは学問的な理由です。魏晋南北朝時代は、漢王朝が滅びた後、中国全土が大分裂した時代です。本来の伝統的な「中国」人、つまり漢民族ではない、周辺の異民族が大量に侵入してきて非漢民族の国々が中国の中に多数できました。その後、隋・唐王朝によって中国が再統一されるまでの間400年近く、この大分裂時代が続くんです。その中で統一王朝の中国というイメージで捉えられ、覆い隠されていた民族や地域文化の差が、分裂によってすごくはっきりと出てきます。ちょうどこういう時代に、東アジアでいろんな地域や民族が目に見える形で活動してくる。今風に言うとトランスナショナルの視野で日本や中国を含めた東アジアの歴史や文化が理解できるんじゃないか、という想いがこの時代の研究をする理由です。

 もう一つ学問的でない理由は、20年ほど前、初めて南京に行った時に風景や周辺地域の風土に触れ、インスピレーションなんですけど、何か自分がすごく好きで、自分が子供の頃から本を読んでイメージしていた中国ってここだ!と思ったんです。南京はまさに魏晋南北朝時代の南の王朝の歴代の都があったところです。南京の大学とか行政もその時代の歴史や文化を活かした研究やまちづくりをしているので、この地方を代表する六朝、魏晋南北朝の文化を研究してみたいと思いました。こういった理由が重なって、今の研究を始めました。

 

 

4:学生に教えている授業内容について。

 

 博物館学を中心に講義しています。今年度の後期から初めて考古学の講義を1科目持っていますが、それ以外は博物館学関係です。大事な基礎のところは教科書的な書籍の内容と同じように教えるんですが、学芸員として21年間(博物館配属は12年間)仕事をしてきましたので、現場の立場からの博物館研究を学生に教えています。教科書に書いてあることと、現場では考え方が違うことも多いです。日本の博物館の成り立ちや法的な制度、博物館の企画・運営の裏側みたいな話もします。でも、博物館学は日本では比較的歴史の浅い分野だから、あまり教科書的な事にとらわれすぎず、むしろもうそれを1回リセットして、新しい博物館、日本での新しい博物館像、美術館像を作っていくというぐらいの感覚で考えるよう学生には言っています。

 

 

5:学生にむけて一言いただけますか?

 

「ちょっと変わり者な感じになってもいいので、セオリーにあまりとらわれずにいろんな切り口から物事を見たり考えたりしましょう。」ですかね。いろんな見方が出てくるのが面白い、楽しいとか、ちょっと自分の考えは他の人と違うかもしれないけど、こういうふうに見ちゃうんだよね、考えちゃうんだよねというのをもっと広げていけばいいと僕は思っています。そういうのが多様性みたいな話に関わっていると思います。みんなと違う意見になって、あいつ何言ってんの、とか言われるんじゃないかと恐れずに積極的に発言をしようということですね。

 中国や台湾の学生は学部生でも国際学会の質疑応答で積極的にものを言うんですね。そういうのを見てるとやっぱり他の人と違うっていうことを恐れずにいろんなものの見方をする、積極的に発言をするっていうことが将来国際的な視野に立って物事を考えたり、発言をしたりする場面で必ず大事になってくるだろうと思います。

 僕自身の話に戻ってしまうんですけど、僕は学部時代の所属専攻は中国文学で、考古学でも歴史でもないんです。学部生の間は考古学専攻の研究室にモグリで入って勉強させてもらっていたので、考古学の基礎教育をきちんと受けていません。大学院からは考古学専攻ですが、修士課程で進学した大学院では専門分野が指導教員と違っていたので、中国の研究は、一観光客として中国に行き、博物館の見学などをしながら進めていました。

 学芸員として在職しながら入学した博士課程の指導教員から、南京大学の先生に最初のきっかけだけ紹介をしてもらって、そこからは10年ほどの間毎年、自費と休暇を使って年に2,3回、南京に通い続け、自力で関係を作っていきました。南京大の先生方とは私が毎年来るので次第に旧知の人間みたいな関係性になっていきました。その後、学芸員をしていた職場で数年間猛アピールの末に上司から許可が出て、2019年に文化庁の在外派遣制度に応募し、南京大学へ約3ヶ月間行くことができました。南京大学へ約10年通い続けた後にようやく3ヶ月間滞在したことで、正式な留学経験はないにもかかわらず、南京大学の先生の一門に加えていただき、今も日頃から同門の交流があります。

 僕自身も知らない人たちの前で積極的に動くというのは苦手な方ではあるんですけど、研究のネットワークはほぼ自力で開拓してきた経験があるので、今、佐賀大学の学生には、恐れずに行動することの大切さを常々、言っています。

 

 

6:佐賀に住んで感じたことを教えてください。

 

 佐賀市内に祖父母の家があったので、大学に進学したくらいまでは、子供の頃からお盆と正月は必ず佐賀に来ていました。よく知った地域ではあったんですが、やっぱり短期滞在じゃなくて住んでみると、一言でいえば、ものすごく住みやすいです。

 とにかく食べ物が美味しい。子供を遊びに連れて行きたいと思ったら、森林公園や吉野ヶ里公園が佐賀市内から車で20分圏内にありますし、温泉に行きたかったら古湯や熊の川温泉があり、コンパクトな範囲の中にちょっと日常を忘れるようなところがある。都市の規模が小さいのでゴミゴミしてなくて、それでいて福岡まで1時間程度という位置関係がいいと思います。

 

 

7:休日はどのように過ごされていますか。

 

 休日はほぼ趣味のこととかできず、ひたすら子供の世話に追われています。上の子は今、年長6歳で女の子、下の子は男の子で1歳半。二人はとにかく家にいることがストレスでたまらないのでどこか外出しなきゃいけない。土日は毎週、用事は何でもいいから外出して、それでヘトヘトになるんですけど。

 余裕があればちょっと吉野ヶ里公園に行ったり、森林公園へ行ったり。どうしても間が持たなくなったら、佐賀城本丸歴史館に連れて行くのが習慣化しています。歴史館のあの広いお座敷で下の子がハイハイしたり走り回ったりしてても、職員さんは寛大に見守ってくれます。雨の日外で遊べないときなんかにも本丸歴史館へ連れて行ってます。

 上の子は美術館を見たりするのは好きなので、展覧会をやってるとたまに連れて行きます。僕自身は自分がこれ面白そうって思ったものがあったら行きますけど、日常的に博物館や美術館に出入りする方ではなく、業界の人間としては比較的ドライな方ですね。考古学に関してもそうですね。考古学が好きだし、遺跡とかも見に行くと面白いんですが頻繁には行かないです。

 

 

8:今後の目標をお聞かせ下さい。

 

 先ほどの繰り返しですが、日本ではマイナーな六朝、魏晋南北朝時代の考古学という僕の専門を、きっちりした一つの研究分野として確立させていくことです。

 

 

9:佐賀県下の企業・自治体・学校の中で何かやるとしたらどんなことをやりたいですか?企業や社会人の方へ一言いただけますか?

 

 博物館研究に関わることですが、まだ単なるアイディアの段階なんですが、学芸員資格が活かされる場や業界の幅を広げていくことができないかと考えています。

 今、日本では本来の専門分野が美術史、考古学等であれば、必要な単位を履修して学芸員資格を取れば学芸員(資料の保管管理、調査研究、展示、所蔵品や地域に関する教育普及活動を行う)になれるチャンスがあるんですが、博物館学を専門に勉強しても学芸員になるのは非常に難しいです。

 海外では、学芸員という職種はなくて、全部業務ごとに専門家が配置されています。例えば展示の企画運営者はキュレーター(curator)、博物館美術館資料の保存修復にあたる人はコンサベーター(conservator)、教育にあたる人はミュージアムエデュケーター(museum educator)などと呼ばれています。

 また、海外では博物館学は美術史、考古学、歴史学という研究分野と同列に扱われていて、博物館学での就職の機会がありますが、日本の場合はそういうポストがほとんどありません。日本では学芸員資格を取得したとしても、その専門性と全く関係がない民間企業へ就職するか、頑張って学芸員に採用されるのを目指すかどちらかしかないような状況で、あまり資格を活かす先がないんです。

 でも例えば、博物館・美術館の全国巡回する特別展なんかを企画しているのはマスコミの事業部であることが多いですが、特別展というのは、少なからず学問的、専門的な知識も必要です。そういうイベントを企画される企業さんのところに博物館学を学んだ学芸員有資格者が就職して社員としていれば、よりレベルの高い企画、提案をすることができるんじゃないかとか、展覧会の会場作りをするディスプレイ会社にも学芸員有資格者が充実していれば、今以上にもっと学芸員や美術館側の視点を考慮した提案ができるんじゃないか、と思っていたりします。

 佐賀大学の芸術地域デザイン学部にキュレーション分野という、僕が所属している分野があるんですけど、つまり博物館学の分野なんです。学芸員資格を取るための必須科目のシステム(学芸員課程)は多くの大学にありますが、博物館学が独立して専攻になっている大学は全国的に見てもとても少ない。佐賀大学の特色として、その卒業生の能力をぜひ民間企業などでも生かしたいと思っています。

 それと、今、ミュージアム業界と、文化遺産の調査研究に関わる技術や機材を開発している民間企業とか、デザイナーさんとかとで一緒に、半分産業、半分学術みたいなコンベンションを佐賀大学でやれたらと考えています。開催は毎年でも、2年に1回などでもいいので、継続的にやりたいです。これを軌道に乗せたら、それは佐賀大学だけでなく、佐賀県という地域にとっても大きな特色になるし、九州にも、国際的にも展開ができるかなと思って、今アイディアを考えているところです。それによって学術的にもいろんな知識や技術の交流や新しいアイディアが生まれてくる基礎にもなるし、学生にとってはそういう機会に触れることでいろんな業界を知り、進んでいく道が開けるので、ぜひともそういう場を作りたいと考えています。県内にも美術館関係や文化遺産関係の業務をやる民間企業があるので、一緒にやっていきたいです。もう少しいろんな世界、業界に学芸員の勉強をした人たちが浸透していくといいですね。

 

佐賀の企業の方々、一緒にやっていきましょう!