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HOME >  佐賀大学の教員紹介 > 『佐賀大学の教員紹介』 経済学部 谷口みゆき先生

佐賀大学の教員紹介

2021.12.28
佐賀大学の教員紹介

経済学部 経済学科 谷口みゆき 准教授

 

 

1.ご出身はどちらですか?

 

 福井県出身です。私の実家は、かつて北前船貿易の中継地点として栄えた港町にあります。伝統的な日本家屋が立ち並ぶ地区もあれば、復元された明治期の西洋建築もあり、文明開化の名残が色濃く残っています。私自身は、常に海の向こうの外国の存在を感じる土地で育ったと認識しています。
 正直、佐賀は私には縁もゆかりもない土地だと思い込んでいました。でも佐賀に来てから、私が中学の美術の授業で模写した〈婦人半身像〉やポーラ美術館で観て素敵だなと思った〈あやめの衣〉が、佐賀出身の岡田三郎助の作品だったと知って、親しみを感じるようになりました。

 

 

2.この道の研究を志したキッカケについて

 

 私は経済学だけでなくクラシック音楽にも興味があって、母校の経済学部では、主専攻として経済学を学びながら、副専攻のような形で西洋音楽史を学びました。それで大学4年次には、主専攻のゼミ論文と副専攻の研究プロジェクト論文とで、計2本の論文を書くことになりました。時間に追われる中で、「財政学の視点で公立文化施設の経営赤字を分析して卒業論文として提出しよう」という考えに至ったのが、文化経済学分野の研究を始めたキッカケでしょうか。

 

 

3.研究についてお聞かせください。

 

 私は計量経済学の手法を用いて、様々な経済政策の効果を検証しています。計量経済学は統計学の親戚のような学問で、数式で表された経済学モデルに統計データを放り込んで、仮説通りの経済政策効果が得られたのかどうかを検証します。
 私はこれまでに、日本の財政赤字問題に問題意識を持って、公共部門の赤字の改善を意図した経済政策の効果を検証してきました。公共部門の赤字にも色々ありますので、佐賀市文化会館や佐賀市立東与賀文化ホールのような公立ホール、都道府県立美術館、国立病院等を具体的に取り上げて、経営の非効率を計測したり非効率の要因分析をしたりしました。
 現在、中心的に取り組んでいるのは、国公立病院の赤字に関する研究です。みなさんご存じのように、日本では高齢化に伴い医療の需要が拡大して、国公立病院の経営が苦しくなっています。国は医療費の増大を抑えるべく、保険の診療報酬の改定など、医療制度の改革を打ち出しています。研究の課題は、医療需要の経済学モデルを分析結果にバイアスが生じないよう工夫した新しい手法で推計して、様々な医療制度改革の効果をシミュレートすることです。困難な課題ではありますが、医療費の逼迫を食い止める政策提言につながる研究です。

 

 

4.学生に教えている授業内容について

 

 年度途中に着任した関係で、私が本格的に授業を担当するのは来年度からで、現在は統計学のみを担当させて頂いております。まだ確定ではありませんが、来年度は、ミクロ経済学や文化経済学の授業を担当する予定です。

 

 

5.学生に向けて一言いただけますか?

 

 コロナ禍という困難な状況の中、大学で学ばれている皆さんを尊敬します。共に経済学を学ぶ皆さんと、大学で議論できることを嬉しく思います。

 

 

6.佐賀のおすすめのスポットを教えてください。

 佐賀市文化会館。佐賀市文化振興財団が主催する公演がとても魅力的なんです。直近ですと、12月にバレエ《くるみ割り人形》の公演があります。物語の一番の見せ場を踊るのは、佐賀出身のバレエダンサー中村祥子さん(Kバレエカンパニー名誉プリンシパル)です。他にも、遅沢祐介さん(Kバレエカンパニー)、池本祥真さん(東京バレエ団)、山本隆之さん(元新国立劇場バレエ団)等、日本国内の主要バレエカンパニーで活躍するダンサーが出演する豪華な公演です。クリスマスシーズンですし、ドレスアップして劇場に足を運ぶのが楽しみです。
 佐賀大学美術館。個人的にぜひお勧めしたいのは、毎年開催される佐賀大学芸術地域デザイン学部の小木曽誠准教授と西洋画専攻の学生による作品展です。意外と佐賀の方がご存じなくて驚いているのですが、今、日本で一番売れているジャンルの絵は写実絵画で、小木曽誠先生は人気のある写実画家の一人なんです。数年前、白日会の公募展を観に行ったときに、絵を描く方に「佐賀の小木曽一派」と教えていただいたのがきっかけで、小木曽先生に注目するようになりました。今年の秋の作品展では、小木曽先生の作品が50点ほど展示されていました。佐賀に住んで、佐賀県全域に水辺の風景があることを知り、小木曽先生の作品に水辺の風景を描いた作品が多い理由が分かった気がしました。
 佐賀県立美術館と岡田三郎助アトリエ。美術館らしい洗練された空間で、佐賀出身の日本近代絵画の巨匠である岡田三郎助の作品を鑑賞できます。今年の秋には、岡田三郎助と黒田清輝の作品が展示されていました。展示作品の豪華さと充実したパネル解説に感激したことを学芸員の方に伝えると、準備に数年かけた国立博物館収蔵品貸与促進事業を活用した展覧会だと教えていただきました。
 有田焼で有名な有田。佐賀大学芸術地域デザイン学部の陶芸を学ぶキャンパスもあります。有田には伝統と革新とが共存していて、有田焼が進化を続けていることを、訪れて初めて知りました。青木龍山窯では伝統的な日本家屋や枯山水を、源右衛門窯ではポーランド陶器のような絵付けの革新的な陶器を目にすることができました。有田内山伝統的建造物保存地区に限らず、町の至る所に日本家屋が立ち並んでいて、街並みの美しさが印象に残っています。アリタセラには都会のように洗練されたレストランやカフェもあって、魅力的な観光地だと思います。

 

 

7.佐賀の魅力はどういったところでしょうか?

 

 美術や工芸に秀でていて、優れた人材を輩出しているところではないでしょうか。佐賀大学の卒業生の伊勢田理沙さんは、とても人気のある若手写実画家ですので、私も東京の画廊で何度か作品を拝見しました。地元の国立大学に芸術系の学部があるのとないのとでは、文化行政の在り方や県民の文化的水準の高さに大きな違いがあるように思います。

 

 

8.休日はどのように過ごされていますか?

 

 劇場や美術館で芸術鑑賞する時間を作るようにしています。今年の秋は、写実絵画で高名な小木曽誠先生の作品をじっくり堪能したくて、(小木曽誠准教授と西洋画専攻の学生による作品展《序展》の)会期中は休日も平日もほぼ毎日、佐賀大学美術館に足を運びました。

 

 

9.今後の目標をお聞かせください。

 

 目下の目標は、科研費研究課題として取り組んでいる国公立病院の赤字に関する研究の遂行でしょうか。それから、佐賀県の地域経済活性化に研究を通して貢献することも目標です。佐賀大学理工学部の三島伸雄先生が「地域の再興に資する研究・地域連携プロジェクト(鹿島プログラム)」に参加してはどうかと誘って下さり、研究テーマについて思案を始めたところです。三島先生は建築デザインによる佐賀県鹿島市の地域再生に取り組んでいらっしゃるのですが、建築デザインと私の専門分野の文化経済学の親和性は高いように感じます。親和性が高いだけに視点の違いを見極めて、経済学ならではの貢献ができる研究テーマを設定しなければと考えています。

 

 

10.県下の企業・自治体・学校の中で何かやるとしたらどんなことをやりたいですか?

 

 「佐賀県総合計画2019」の未達成項目のひとつに、県立文化施設の需要の低迷がありますので、県立文化施設の需要を定量的に分析してみたいです。中長期的な研究計画が許されるのであれば、研究に必要なデータを収集するところから取り組みたいです。利用可能なデータが限られているために、使いたい手法を使えなかったり、検証したい内容を検証できなかったりと、研究内容が制限されることが本当に多いので。