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『佐賀大学の教員紹介』 芸術地域デザイン学部(有田キャンパス) 田中 右紀 先生

2021.01.06
佐賀大学の教員紹介

芸術地域デザイン学部(有田キャンパス) 田中右紀教授

 

 

1.ご出身はどちらですか?

 

 佐賀県の嬉野市です。そこで両親が焼き物の窯元をしていました。

 

 

2.この道の先生になろうと思ったキッカケについて

 

 私の父が焼き物の作家だったというのが大きいですね。大学時代は彫刻を専攻していて、1年のときに芸大の博士課程の先輩が、牛乳を飲みながら大量の砂を食べて吐くっていうパフォーマンスをやってるのを観て「自分は本当に将来美術をやる覚悟があるのか」と改めて考えて、「自分が求めているのはひょっとしてこんな美術じゃない」と思ったんですね。基本的には「健康であるべきだ」と思ったんです。表現としての美術は必ずしも倫理に縛られなくていいと思うんですが、工芸は倫理観が問われるだろうと思って。改めて「人間がより良く生きる手助けができる工芸をしよう」と思い、卒業後に父の工房で働いて、その後独立して「開キルンセラミックスタジオ」を佐賀県武雄市に開いて仕事をしてたんです。でも、それだけでは生活が大変で、自分の作りたいものを作ることが自分の仕事のつもりでいましたから、それを続けるには大学の先生しかありませんでした。

 

 

3.研究についてお聞かせください。(研究の魅力・抱負)

 

 焼き物っていうのは基本的には生活を構成する道具で、そのあり方は当然文化が背景にあって成り立つので、そこが魅力でやってるんじゃないかと思います。大学時代、飲み会の前には、大学の先生が漁船代を出してくれて学生3人ほどで駿河湾に行ってワラサやタイを50匹くらい釣って、フラフラになりながら東京に戻って、その魚を捌いて宴会の準備をして60人くらいのお客さんや学生をもてなしてた。そんな「もてなす」ことを年に4~5回やってたんです。それがあってその後、海外のワークショップや展覧会のレセプションでも、自分で料理を作ってもてなしてました。そのためには市場に買い出しに出かける。そこでその人たちの生活や好みが解って、何を求めているかみたいなものもわかってくる。共に食事をし、暮らして見えてくる心根がある。単に自分を主張して帰るというものではなくて、向こうが求めるものを意識しながら自分が求めるモノを見つけるということは魅力ですね。

 

 

4.学生に教えている授業内容について

 

 授業は工芸とやきものに関する「実技」と「理論」を教えています。実技では自分のこれまでの経験と学生の「初めて作りたいこと」がいかに効率よくかみ合うかを一緒に考えていくということに一番力を入れています。
 理論では、「工芸理論」を担当しており、日本と西洋の両方の工芸の歴史をやります。社会主義が立ち上がる息吹と同じ頃に西洋ではウィリアム・モリスが「アート・アンド・クラフツ運動」を、日本ではその後柳宗悦が「民藝」っていう運動を起こして、その2つが「無印良品」とか「ユニクロ」などの企業理念につながってる。現在の日本のプロダクトデザインの掲げる「善」は生活のレベルで豊かさを求める工芸の理念に繋がっていることを話してます。あともう一つ、日本人は明治以降西洋の美術を受け入れた国なので、私たちの生活には絵画鑑賞はなじみがなくて、日常的に美術館で絵画鑑賞する人はそれほどいない。そんなことの為の「美術」だとすれば私はあまり興味が無い。私たちはそんなのとは違う「美術」をちゃんと知っている。その一つとして「焼きもの」がある。「生活する空間や建物にちゃんと目を向けたい。そこには東洋の人々が育んだ「美術」があるでしょう」という話をするんです。そんないろんな文章があってそういったものを紹介していく授業をやってます。

 

 

5.学生に向けて一言いただけますか?

 

 「あなたは面白い!」
 単なる激励の言葉じゃなくて、今大学生くらいの人っていうのは現代の先端ですから、その人達が求めてることは面白い。作品でも、これまでの善し悪しに忖度して出してきたものなどは大変つまんない。でも、純粋に今こういうものを作りたいんですってストレートに出てきたとき「あなたは面白い!」と思えるんですよね。「面白い!」が、忖度のベールに覆われてるんです。だから、自分でそこをちゃんと客観的に分析して、面白いところをちゃんと理解できれば、それを振り払えるんですけどね。でも、本人は何が面白いのかほとんど解ってない。なので、3人以上でしゃべるといいですよ。そうすると、会話の中身が分析されていきますよ。自分1人だと同じことを頭でグルグルと考えて堂々巡りになりますよね。でも3人以上で批評したり、言い合うと、友達とか先生がいらんこと言い出す訳ですよ(笑)「あの人いらんこと言うなぁ」とか思ってるうちに、自分の言いたいことは何かっていうことがふと見えてくる。直接誰かが良いこと言ってくれるかといったらそうでもない。人の言ってることの横に良いことが浮かんでたりするんですよ。一線ちょっとずれたところに答えがあるんです(笑)

 

 

6.佐賀のおすすめのスポットを教えてください。

 

 有田駅前の「徳久」という八百屋さん。八百屋さんなんだけど、そこがサバ、アジ、西海のカニなど「なんでこんなに安いのか」っていうくらい安くて良いものを出してるんですよ。港の元卸から直通なのかな?だから多分種類が少ないんですよ。良いのが揚がった時にはそれが安いんです。それを見てると内陸に居ながら海の状況が想像できます。海水温や潮の様子、季節の変化が分かります。
 あと、白石町の産物直売所「山海里」。ここは有明海のものが売られていて、冬にはくず海苔が出てよく買います。それを雪平鍋に醤油とか酒とか味醂とかを入れてひと煮立ちしておいて、そこに飛ばないようにくず海苔を山盛りに入れて海苔の佃煮を作るんですよ。自家製の海苔の佃煮。甘くなくて、それが美味い!あと、ウナギもその辺で獲れたものを出してるし、バカガイも美味しいです。

 

 

7.休日はどのように過ごされていますか?

 

 休日は家に薪ストーブがあるんで薪をそろえなきゃいけない。ご近所さんと「薪の会」を作っていて、一緒に山に木を伐りに行ってます。木を一本倒すと大変なんですよ。枝打ちから山出し、最後薪割りまでしてね。そんなことやってると時間が足りません。反対に趣味は「木を植えること」なんですよ。自分の庭に100以上の種類の木を植えてるんです。神宮の森がお手本です。あれは全国から代表的な木のいろんな種類を集めていっぺんに植えたんですよ。すると、木が競争しあうんです。1番最初に大きくなるやつがいてそれに守られて、次のやつが出てきて、落ちた葉っぱとか枯れた木とか掃除しないでそのままにしてあるわけ。そうやって、土ができて計画的にやっているのが明治神宮。それを真似てたくさんの木を庭に植えました。最初は1本の木しかなかった庭が今ではたくさん植わってます。紅葉がとっても綺麗ですよ。

 

 

8.今後の目標をお聞かせください。

 

 今後の目標はいっぱいあります。自分の表現の仕事でいえば、やりたいアイデアが2つ3つあって、ここ10年くらいで実現したいなと思ってます。大学のことでいえば、佐賀大学有田キャンパスのエントランスの展示スペースを充実させようとしてるんですよね。学生や地域の人たちが来てくれて、地域の人たちも展示することがあってもいいと思ってて、そういう地域との交流の場所になればいいなと思ってる。さらに言えば、それが進んで、有田の街中にも学生や卒業生が展示できるスペースができればいいと思ってます。そうすると、有田キャンパスの卒業生グループが有田で生活の糧を得、有田で評価され活躍し、それが有田の産業、観光、有田の活力になる。若い人たちが産地で活躍し始めると、街の活性とそれを外に発信する意味で動きが早いんですよ。それは有田全体のために良いはずだと思っていて、やりたいと思ってます。

 

 

9.県下の企業・自治体・学校の中で何かやるとしたらどんなことをやりたいですか?企業や社会人の方へ一言いただけますか?

 

 一番にすべきことは、焼き物の世界に自立できる良い人材を多く供給すること。それが地域の焼き物産業全体の為になると思っています。「急がば回れ」人が有田に新しいムーブメントを作っていくだろうと思います。そのために、有田で焼き物を学ぶ学生の住居など生活面の援助が必要だと思っています。
 既に有田キャンパスのエントランスホールは作品の展示を始めていて、学生の学期末の授業の成果物や先生の研究成果など展示しています。個人の学生の発表の場としても使え、学生の作品展もありますので、是非気軽に有田キャンパスへ遊びに来て頂ければと思います。