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HOME >  佐賀大学の教員紹介 > 『佐賀大学の教員紹介』教育学部 石井 宏祐 先生

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2021.03.08
佐賀大学の教員紹介

教育学部 附属教育実践総合センター 石井 宏祐 准教授

 

 

1.ご出身はどちらですか?

 

 福岡です。父が転勤族で,実家の福岡を中心にして,いろいろ行きました。小学校3年までが東京,それから北九州市にいたり,香川県にいたり,福岡に戻ったり,転校が何度かあるような感じでした。父の実家が福岡ということもあって,やっぱり福岡が落ち着く感じはあるのかなと思います。大学時代から東北の仙台に10年くらい,そこから鹿児島の大学に教員として10年くらいいて,佐賀大学に来ました。

 

 

2.この道の先生になろうと思ったキッカケについて

 

 私は臨床心理学を専門にしています。臨床心理士として,学校現場や精神科クリニック,精神障害者の方を対象とした福祉施設などでカウンセリングの仕事をした後,臨床心理士を養成する大学院の教員になりました。現在は佐賀大学の教員養成課程で,幼稚園や学校の先生を目指す学生に,心の相談に関する理論や方法を教えています。
 小さいころ,祖母や母が高齢者の方達に夕食をつくるボランティアをしていて,「人のために役立つのはいいことだなあ」と幼心に思いまして,ボランティアを職業にしたいと思いました。当時,ボランティアは今ほど一般的ではなく,無償の奉仕活動であることを知りませんでした。中学1年生になってようやく「無償の活動なんだ」「ボランティアでは生活していくことはできないんだ」と知りまして,ちょうどその時期に「臨床心理士」の記事か番組かを見たんですよね。第1印象として,「これは私がやりたかったボランティアに似ているな」と思いました。タイミングに恵まれたと思います。そういう偶然がありまして,そこからずっと臨床心理士になりたいと思っていました。臨床心理学や心理学の本を読むようにもなりました。「河合隼雄」という方が日本の心理学を引っ張ってきた中のお一人で,一般向けにわかりやすい本もたくさん書かれていたので,そういう本を読んでいるうちに,「臨床心理士」という資格,「臨床心理学」という学問への関心がさらに強まりました。そのまま大学に入って大学院に行き,そのうちに「臨床心理士」を育てることにも関心を持ち始めて,今この道にいるという様な感じです。

 

 

3.研究についてお聞かせください。(研究の魅力・抱負)

 

 私が専門にしている臨床心理学には大きく4つの柱があります。1本目の柱はカウンセリングです。悩みや苦しみを抱えて相談にいらした方(クライエント)と対話しながら,解決の道のりを一歩後ろから支えていく営みです。2本目の柱はアセスメントです。クライエントやクライエントがおかれた状況について,理解していく営みです。心理検査を用いることもあります。知っている方も多いかもしれませんが,IQを算出する知能検査も心理検査の一種です。3本目の柱は地域貢献です。臨床心理学で積み重ねられてきた知見を地域に還元する営みです。そして4本目の柱として研究があります。臨床心理学という学問を拡げ深めていく営みということができます。
 私は家族療法というカウンセリング方法を特に専門にしていますので,研究も家族療法ついてのものが多いのですが,関連してアディクションの研究にも力を入れています。
 アディクションというのは嗜癖(しへき)と訳されますが,近い概念に依存症があります。アルコール依存症や薬物依存症や,ギャンブル依存といった言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。最近ではゲーム依存やスマホ依存という言葉も身近になってきました。アルコールやゲームなど,ぜんぜん違うように感じられるものが,同じ依存という言葉で表現されることに違和感を覚える人もいるかもしれません。しかしこれらには,「分かっているけれどやめられない」という共通点があります。初めはストレス解消のために行っていた行動(飲酒やゲームなど)が,ある時を境に逆転し,それをしないことがストレスになってしまいやめられないのがアディクションなのです。
 あくまでも生活を支える一時的な心のよりどころだった行動が,生活を覆ってしまうほど日常的になってしまい,生活に支障が出てきてしまいます。そして,仕事を失ったり,信用をなくしたり,健康を損なったり,大事な人が離れていったりしてしまいます。それらの喪失感はとても大きく,その心の穴を埋めるために余計にアディクション行動が増えてしまうという悪循環に陥ってしまうのです。
 想像してみてください。この悪循環からの回復は非常に難しそうです。たとえばアルコール依存症の方が,100日間お酒を口にせず,自分が治ったと思ったとします。しかし,治ったことを確認するためには,一口飲んでみなければなりません。一口飲んで問題ない状態を経験して初めて治ったことになるからです。そこで一口飲んでしまうとしましょう。そうすると,一口飲んで大丈夫でも二口飲んで平気じゃなきゃだめだと感じ,もう一口飲んでしまうことも自然なことのように思います。そのように一口また一口と飲んでしまい,その結果,100日間お酒を口にしなかった努力は紛れもない事実だったにも関わらず,アルコール依存症の状態に戻ってしまうのです。
 ちなみに少し補足しますと,アディクションは,治ったことを確かめることが再燃につながることがあまりにも多いので,治るという言葉を使わず回復という言葉を使うことが一般的です。治るというゴールに到達するイメージではなく,回復を続けていく,回復を日常にしていく,というイメージなのです。
 話を戻しますと,アディクションからの回復は決して簡単ではないのですが,実際に回復を続ける方も少なくありません。私はそういった方々の回復の経験を調査し,理解を深める研究をしています。
 それと同時に,回復はやはり難しいものですから,その苦しみや葛藤についても理解を深め,回復できることが当たり前なのではなく,回復が難しいこともまた当たり前のこととしたうえで,どのような支援ができるかについて,より明らかにする研究をしているところです。

 

 

4.学生に教えている授業内容について

 

 教育相談や生徒指導の授業,心理学の概論や,臨床心理学や家族心理学などを教えています。私が所属している教育学部では,多くの学生が,「勉強を教えること」や「先生として人生のモデルとして活躍すること」などを目標に日々学びを深めています。そういった学生たちに,虐待やいじめなど様々な困難に対峙して苦しみながら生きている子供たちがいて,その子に直に接する立場として教師がいるんだ,ということをしっかり伝えていきたいと思っています。それと,現場に出ると保護者の方との連携も大切です。多くの学生がなかなか自信を感じにくい分野でもあります。学生には保護者との連携の仕方や対応方法なども丁寧に教えていきたい,学生が教育相談や生徒指導に少しでも自信を持って卒業していけるようにしたいと考えています。

 

 

5.学生に向けて一言いただけますか?

 

 2020年は大学生たちにとっても,とりわけ苦労が多かったと思います。まず「ご協力ありがとう」と言いたいです。今年の学生たちはこのコロナ禍にあって,気持ちが沈んだり目や肩に不調が出たりするような大変な状況でオンライン授業を受けて来ました。それにも関わらずレポートは例年よりもさらに内容が充実していた印象がありました。「よくやっているなあ」と思いましたし,「大したもんだ」と思います。「ご協力ありがとう」という一言に尽きます。

 

 

6.佐賀に住んで感じたことはありますか?

 

 すごく住みやすいですね。いろんなものが手の届く範囲で全部あるのがいいです。あと,空の広さは気持ちがいいです。バルーン・フェスティバルの時期,朝空にバルーンがたくさんあがっていると「佐賀の風物詩だなあ」と思います。とても綺麗です。佐賀城公園の散歩道も気に入っています。時期によってはライトアップされますし,桜の時期は桜が綺麗なので,住む町としていろんな散歩道があるのはいいなあと思います。

 

 

7.休日はどのように過ごされていますか?

 

 キャンプが好きなので時間が作れたときには家族でキャンプに行っています。大学の友人がFacebookにキャンプの写真をあげ始めて「いいな」と思って,一昨年の夏くらいからやり始めました。佐賀はキャンプがしやすいです。北山キャンプ場は,緑豊かでキャンプサイトも使いやすく,しかもタダなんです。びっくりですよね。とてもいいです。

 

 

8.今後の目標をお聞かせください。

 

 研究を進めていきたいです。心理学は自然科学であろうとした学問なのです。ところが,自然科学は目に見えるものを対象にしていますので,目に見えない「心」というものを自然科学的にやろうとすること自体がちょっと異端扱いで,心理学というのはなかなか日の目を見なかった学問なのですね。しかし逆に,だからこそ,目に見えないものをどう測るかということで,アンケート調査の技術が発展してきました。アンケート調査もかなり緻密な作り方というのが整ってきていて,「目に見えないものを測る物差し作り」をすごく大事にしてきました。多くの人にアンケート調査に協力してもらって,人間の傾向はこうだとか,多くの人に実験に参加してもらって結論を出すとか,そういうところに魅力を感じています。
 さらに最近は,人間の傾向だけでなく,個々人の個別の経験を丁寧に理解していく研究方法も見直され,インタビューをして,そのデータを緻密に分析する方法が発展してきています。人間の傾向を調べるような一般性を重視する「物差し作りの研究」と,一人ひとりの個別性を重視する「経験理解の研究」というのがあって,この「経験理解の研究」は,自然科学の異端として位置する心理学のさらに異端として発展してきました。こういう研究が今はだんだん認められてきています。両者とも非常に重要な研究方法ですので,そういう手法を通して,支援者が対象の方たちを無理にコントロールしようとすることなく支援していけるように,対象の方たちを理解していく研究を続けていきたいと思っています。

 

 

9.県下の企業・自治体・学校の中で何かやるとしたらどんなことをやりたいですか?

 

 今は小学校のカウンセラーをしています。他には,教育相談の研修で講師をしたり,心理支援の要である養護教諭の方達にお話しさせていただいたり,障害のある子供たちを学校現場で支えている生活指導員の方々へ講演をしたりしています。また,心理援助職者の支援をするスーパーヴィジョンも行っています。これらの活動は自分がやりたいと思っていたことでもあります。あとやりたいこととして,以前,ある市役所の復職支援事業のカウンセラーとして,「うつ」でお休みに入られる方の「休む準備」のための面接や,「復職の準備」のための面接をしていました。その方にとって「休むこと」も「復職」もとても大きな取り組みです。そのような支援もまたやっていけたらと思っています。