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『佐賀大学の教員紹介』 芸術地域デザイン学部 花田伸一先生

2020.03.05
佐賀大学の教員紹介

芸術地域デザイン学部  芸術地域デザイン学科 花田伸一准教授

 

 

1.ご出身はどちらですか?

 

 福岡市です。現在は週末だけ、家族のいる北九州に帰っています。
 自分が車を運転している間に、youtubeとかアーティストのレクチャーなどの録音したものを車で聞きながら帰っているので、ちょうどいい勉強の時間になっています。

 

 

2.研究についてお聞かせください。

 

 地域でのアートプロジェクトの研究をしています。地域で展開されるアートは美術が好きな人だけでなく、あらゆる人が観客の対象になるので、美とは何か、感動とか何か、人間に必要なものは何か、社会に必要なものは何かを掘り下げて考え、届けることがキュレーター(※)の仕事であると思っています。(※美術館や博物館などで、展示する作品の企画から運用まで全般を請け負う仕事)
 最近なんですけど、そういった意味で、人間らしさ、何に自分が感動するのかを突き詰めて考えてみたら、「痛み」だなと思っています。これはほとんどの人は受け入れにくい考え方かもしれませんが、「痛み」を伴っていない作品なんか私は全然感動しないんです。AIは痛みを感じないので何時間働いても平気だが、生身の人間は何時間も働いてると苦しいです。それを乗り越えて作った作品だと、人は「ほぉ」ってなると思うんです。それが作品に深みを与えているんだと思う。見た目はキレイな作品とかごく自然体なものでも、そういう作品の背景には表現者のそういった生みの苦しみが絶対あるはずだと思うんです。安心、安全、便利、快適な社会だとそれが奪われていってしまう。痛み、苦しみがなくなる…、それは良いことなんだけど、一方では、生きている実感に乏しい感動のない社会になっていってしまう。痛みとどう向き合うかをきちんと考えるのが、人間らしさをとりもどす鍵ではないかと思います。
 だから、私の研究活動では、そういったことも含めて、究極的な意味では人間性の回復を目指しています。

 

 

3.この道の先生になろうと思ったキッカケについて

 

 小さい頃から、絵を描いたり楽器を弾いたり芸術活動が好きでした。高校で、自分が直接表現するよりも表現者を手伝う方(運動会の壁画制作を管理運営)に面白さを感じたので、実技系ではなく理論系の学科へ進学しました。
 そして、美術史を学んで美術館の学芸員になりました。そこから、地元での作家さん達の活動に影響を受けて、それまでの価値観がひっくり返る経験をしました。その経験というのは、作家さん達が町中にゲリラ的に勝手に作品を仕込んでおくんです。それが作品によっては町に生き残っている作品もあれば、邪魔だっていってすぐ撤去される作品もある。町がどれだけ異物を許容できるかっていうのをやってやろうっていうのがあって、「こんな見せ方があるんだ」って、お客さんにみてもらうだけじゃない、一人でも多くの人にじゃない。むしろ目につかずに生き残っているほうが「えらい」という。見えていてもその場に溶け込んで風景になじんでいる。社会の場にどうなんだろうっていう問題意識を問う行為にびっくりしました(SECOND PLANET「パラサイト・プロジェクト」1995-96年、福岡県北九州市)。また、田川市のプロジェクトでは参加した人を巻き込みながら50mの鉄塔を建てようと毎年活動してて、ただ鉄塔は建つか建たないかは重要ではない。集まった人がなんかやりたいとか興味を持っていることをやれるような場づくりが真の目的。集まった人が勝手になにか作ってくれればいいと思っている。要は全体の仕掛けづくりとか場づくりをその作家さんはやっていた(「川俣正コールマイン田川プロジェクト」1996-2006年、福岡県田川市)。
 「あっこんなやり方があるのか!?」と思って、自分もその地域のプロジェクトに参加するうちに、美術館をやめようと思いました。そして、しばらくフリーランスで活動していたところ、佐賀大学芸術地域デザイン学部の開設のことを知り応募しました。

 

 

4.学生に教えている授業内容について

 

 キュレーターとしてのジョブトレーニングをしています。
 哲学・宗教・社会学などが基礎教養です。これらはつまり人間らしさとは何かを考える学問です。
 それと同時に、授業では現場経験を積ませます。展覧会やイベントを企画運営させます。学生がアーティストや関係者に直接コンタクトを取って、そこからの過程で生じる様々なリスクをとって経験させて学んでいく。場数を踏みながら、読み書きだけでなく、話す・聞く力、場の空気感や流れを掴む力を磨いていくことを大事にしています。学生はまだ最初はキュレーターという仕事がどういった仕事なのかということがイメージできていないが、一回でも関わると「こんな仕事とは知らなかった!」と学ぶ姿勢が変わっていきます。

 

 

5.学生に向けて一言いただけますか?

 

 「自分のためが社会のためになる。いくら地域が活性化しても、一人ひとりが輝いていなければ意味がない。」
 会社に行くってこういうことだ、学校に行くってこういうことだって、人が作った価値観や情報になるべくフィットするのを良い人生とするっていうのが僕には違和感があります。もっと自分のために生きないと後悔するんじゃないかと思うんです。芸術家の役割は自分の体感に嘘をつかないこと。

 

 芸術家はいつも痛みと向き合っているので逆境に強い。社会人になって一度心が折れたらダメージが大きいので、学生のうちに芸術活動を通じて心が折れるような経験もたくさんしてみて、そこから自分の人生をカスタマイズできるだけの胆力と、自分のための人生を歩んでいけるだけのチカラを養ってもらいたいと思ってます。

 

 

6.佐賀に住んで感じたこと

 

 空の広さが気持ちいいです。

 

 

7.佐賀県内おすすめのスポットを教えてください。

 

 アーティストが運営するスペースがおすすめです。
 ARTS ITOYA(武雄)、HAMASHUKU KURABITO(鹿島)、ボンドバ(多久)。
 参考URL https://artne.jp/column/610

 

 

8.今後の目標をお聞かせください。

 

 学部からキュレーターを輩出することです。

 

 

9.最後に、県下の企業・自治体・学校の中で何かやるとしたらどんなことをやりたいですか?企業や社会人の方へ一言いただけますか?

 

 自分自身はまだ全然地域に関われていないように思っています。アーティストを呼んできてアートプロジェクトをやりたいし、うちの教員は熱量が高いのでそれをうまく地域に発信したいです。状況に応じて、呼んでくる
 アーティストや企画内容は異なりますが(そのアレンジがキュレーターの仕事)、アーティストはいつも新しい視点を持ち込んでくれ、私たちの思い込みや価値観を揺さぶってくれます。そのおかげでマイナスだと思い込んでいたことがプラスにひっくり返るなど、これまでとは違った角度から物事を見ることで風通しが良くなったり、新たな突破口が見つかったりします。日常にちょっとした変化が欲しい人、見知らぬものにワクワクしてしまう人、大変そうなことに燃えてしまう人、自分が何者かよく分からない人、是非一緒にやりましょう!